第十一章 追憶の二重奏
第一話 烈風
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が、今その壁には人間大の穴が空いている。より正確に言えば、椅子に座った成人男性と同じ大きさの穴が……。
……お、脅されてるわし? ……わ、わしって、か、家長だよね?
視線を前に戻すと、そこには何時の間に抜いたのか、杖を手にした公爵夫人の姿があった。公爵夫人は杖を軽く回しながら、目を細め小さく溜め息を着いた。
「駄目ね、やっぱり錆ついているわ。威力も弱いし、狙いがズレてしまっている」
……あ、あれ? 今の狙いズレてたの? じゃ、じゃあもし狙い通りなら何処に……か、考えるのはよそう……。
「え、ええ、えと、そ、そのだなカリーヌ。そ、そうあれだ、あれ」
ガタガタと身体を恐怖で震わせながらも、それでも娘のためと声を上げる公爵。まさに父の鏡といった姿であるが、
「『その』だの『あれ』だの意味が分かりません。もう少しハッキリと分かるように喋ってください」
こめかみをヒクつかせている公爵夫人が手に持った杖の先を向けられると、ピタリと身体の震えを止め、
「いえ、なんでもありません」
とハッキリと分かりやすく返事をした。
余りにも情けない姿であった。
おどおどと父と母を見ていた娘二人の視線がすっと細まり、軽蔑の色が浮かんだのは仕方がないことだろう。
公爵が力なく顔を伏せる姿を見ると、公爵夫人はガタリと音を立て勢いよく立ち上がり、ピシリとテーブルを手に持った杖で叩く。
「前々から思っていましたが、あなたの躾は甘すぎでした! そのおかげで我儘に育ったあの子の性根を、この『烈風』が直々に罰を与え叩き直させていただきますッ!!」
「……ルイズ、やっぱり俺もついていかないといけないのか?」
ラ・ヴァリエール家の領地へと向かう、揺れる馬車の中、顔を顰めた士郎が隣で縮こまるルイズに声をかける。士郎の手を冷えた手で痛みを感じる程強い力で握り締めながら、ルイズは顔を上げずに士郎をくぐもった声で責める。
「シロウ。あなたわたしの使い魔よね。その使い魔が何で主人を置いて逃げるのよ」
「いや、逃げてるわけじゃ」
ギリっと手の甲を抓られた痛みに小さく歯を噛み締める士郎。
「本当に?」
「……すまん嘘だ。いや、しかしだな。俺が行ったら絶対トラブルになるぞ。……お前は忘れたのか? 以前参戦の許可を受けに行った最後……どうなったかを……」
目を閉じれば直ぐに思い出せる。怒りのあまり無表情になったルイズの父親の顔が……。
「―――あれは夢よ」
「……っはぁ……全く、お前という奴は……」
キッパリと言い切るルイズに、士郎は顔を手で覆うと溜め息を吐き首を振った。
「……一体何があったのよ?」
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