第十一章 追憶の二重奏
第一話 烈風
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巡らし、公爵は声を上げた相手に顔を向ける。視線の先には自身の妻、
「口にした責任として、わたくしが与えましょう」
公爵夫人の姿があった。
「え、えっと、何もお母さまがわざわざ自分の手でやらなくとも……」
先程まで泰然とした態度で常時笑みを浮かべていた口元を、今は引きつらせながらカトレアは焦った調子で自身の母を止めようとする。隣に座る姉のエレオノールも、顔に大量の汗を浮かばせながら、必死に引きとめようと手を伸ばすが、
「あなたたちは黙っていなさい」
公爵夫人から向けられたキロリと鋭い視線により、氷着いたようにその身を固まらせた。
「そ、そうは言うがなカリーヌ。娘たちの言うこともほ、ほら、一利あるとは思わんか? 何もお前が手ずから罰を与えんでも……の、のうジェローム?」
必死に自分の妻に食い下がろうとした公爵であったが、公爵夫人の身体から湧き出る鬼気に恐れをなすように身を引かせると、傍に控える執事に縋るような視線を向ける。
「っ、あっ、あ〜……い、いけませぬな。突然ですが、私急ぎの用を思い出しましたので、少し失礼させていただきます」
逃げるように小さな歩幅で、しかしかなりの速度で後ずさると、頭を下げた姿のままダイニングルームの扉の向こうへと姿を消した。そしてジェロームが開けた扉が閉まり切る前に、これ幸いと、何らかの言い訳を口にしながらダイニングルームにいた召使が全員頭を下げたまま抜け出ていく。
最後の一人が扉から消え、ドアが音を立てて閉まる。しんっと水を打ったように静まり返るダイニングルームの中、ゆっくりと席から立ち上がった公爵夫人は、顔を家長たる夫に向ける。
「ルイズはわたくしが直接教育しました。ならば躾けをしたわたくしが、娘の不始末をつけましょう」
声を荒げているわけではない。顔を怒りに染めているわけでもない。しかし、それでもその身から立ち上るある気配は、公爵夫人が激怒していることが分かる。それを公爵ははっきりと、それも嫌というほど理解していた。それを思い出し、歯を鳴らす音を強めながらも、それでも愛する娘を守るためと勇気を振り絞り、声を上げるが、
「いや、こういったことは家長であるわしがキッち……―――」
轟音と地響き、そして背後から吹く風に口が開いた状態のまま固まってしまう。公爵の直ぐ後ろは壁であり、窓一つありはしない。なのに……背中から風を感じる……。衝撃により天井から埃が舞い落ち、テーブルの上に広がる料理の上に乗る。だが、誰もそのことについて何も言わない。顔を前に向けたまま、公爵は目玉をギリギリまで端に寄せ背後を見ると、そこには―――、
……か、壁が……。
ダイニングルームの壁は、固定化の魔法がかけられていた。だ
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