第十一章 追憶の二重奏
第一話 烈風
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、家人も端に控える使用人も誰もが微動だにしていない。それはこのような事態が珍しくはないことを示していた。
「越境してガリアに向かうなど……馬鹿かルイズはッ! わしを心労で殺す気なのかっ!」
「そうですわね。反対を押し切って戦争に参加したかと思えば、今度は無断でガリアへ入国だなんてっ! 一体何をしたいのかしらっ、全くもうっ!」
憤慨を露わにする父に、鼻息も荒く頷くのは、ラ・ヴァリエール家の長女たるエレオノールだった。トリスタニアのアカデミーで働いていたエレオノールだったが、父親からルイズがガリアへ無断で入国し、そのことについて陛下が城にくるとしらせを受け、飛んで帰ってきたのである。
ダイニングルームに怒鳴り声が満ちる中、父と姉の言葉を耳にしながらも穏やかな笑みを口元に浮かべていたカトレアが口を開いた。
「でも、その理由が友人を救うためだと言いましたわよね。お父さま?」
「むぅ、確かに友のために行動したことは悪いとは言わん。だが、それでも守らなければならない法というものがある」
カトレアの言葉に喉を鳴らしたラ・ヴァリエール公爵だったが、直ぐに重々しく顔を左右に振った。
「っはぁ……ルイズのことも問題だが、カトレア。お前も人のことはとやかく言えないのだぞ。わしはまだ納得しておらんぞ。全く一体何を考えているのだ。突然学院に行くと使用人に言いつけ家を出ていき、今まで一つも連絡をよこさんとは、わしがどれだけ心配したと思っている。何度も手紙を送ったというのに返事も返さず……全くお前は」
「確かこの前ので百四十六通でしたかしら? あら? でもお父さま。わたしちゃんと返事をお返ししましたわよ」
頬に手を当て小首を傾げるカトレア。首の動きに合わせ桃色のブロンドがサラリと流れる。その顔にはおっとりとした微笑みが浮かんでいる。
「最初の一枚だけだ! しかも何だ? 『健康になりましたので、そろそろ本格的に独り立ちしようと思います。なので早速ですがトリステイン魔法学院で教師を始めました』とはっ!! 使用人からお前が魔法学院に行くと聞いたときも驚いたが、手紙の返事を読んだ時は心臓が止まるかと思ったぞっ!!」
「あら? それは大変ですね。お医者様は何と?」
「比喩だ比喩っ!」
苛立ちを露わに怒鳴り声を上げ、テーブルに拳を叩きつける公爵。拳を叩きつけられたテーブルが、先ほどよりも大きく震える。
「あらあら」
だが、それでも欠片も動揺することなく、それどころか口元に手を当て「ふふふ」と穏やかな顔で笑うカトレアの姿に、公爵は怒気を抜かれたようにため息を吐くと共に肩を落とす。
「はぁ……全くお前は……それで手紙に書かれていた『健康になった』とはどういうことだ? どんな医者もメイジさえも匙を投げたお前の病気が治
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