第十一章 追憶の二重奏
第一話 烈風
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? ラ・ヴァリエールと言えば彼女の実家ですが」
「甘いと、あなたは言うかもしれませんね」
顔を上げ、窓に向こう、空を見上げながらアンリエッタは呟く。憂いに満ちたアンリエッタの横顔を見たアニエスは、その場に膝を着き頭を下げた。
「陛下。私は陛下の剣であり盾であると自負しております。いかなる命令であっても剣としてあらゆる者を斬りましょう。陛下の身に危機が迫れば、この身が朽ちようとも御身を守りぬきましょう。ですが、私にもできないことは多くあります」
「……」
アンリエッタの視線が動き、自身の背後で膝をつくアニエスを見る。
「……内心がどうであれ、陛下の命に従う者は多くいるでしょう。しかし、陛下に従わず、されど、その御心を大切に思うものは限られます。……ご友人は大切になされるべきと愚考する次第です」
アニエスの言葉を耳にしたアンリエッタは、顔を前に戻し、窓の向こうに見える空を仰ぐ。両手を後ろに回し、背中で指をいじりながら「そう、ですか」と呟くと、顔を俯かせる。
「ですが、陛下の心配もわかります……そう、ですね。越境については今のところ表立って口にするものはいませんので、暫くの閧ヘ彼らに無給で雑役でも与えておき、何か言ってきた際は、それで処罰を与えたとすれば……」
「それで納得するでしょうか?」
首を傾げるアンリエッタに、苦笑しながらアニエスは言う。
「この宮殿―――いえ、この国に彼らに匹敵する手柄を上げたものはいません。それが答えです」
「―――そうですね」
小さく耳を震わせた言葉に顔を上げ、「陛下?」と問いかけるアニエスに体ごと振り返ったアンリエッタの顔には、先程まで浮かんでいた憂いの姿はなく笑顔があった。
「では、彼女にはわたくしを心配させた罰として、お父上に叱っていただきましょう」
「っふ、いえ、失礼しました。では、準備を急がせます」
噴き出した口元を隠したアニエスは、立ち上がると執務室を出ていった。アンリエッタはアニエスが閉じた扉に目を向けた後、テーブルに置かれた手紙に目をやり。
「でも……本当に無事でよかった……始祖ブリミルよ。わたくしの友人が無事戻ってくることに感謝いたします」
ラ・ヴァリエールの城の中、巨大なダイニングテーブルが置かれたダイニングルームには、ルイズを除くラ・ヴァリエール家の者が勢ぞろいしていた。テーブルの上に並んだ豪勢な昼餐の料理がひろがっていたが、テーブルを囲む者たちは誰一人としてそれに手を伸ばす者はいない。
ダイニングテーブルの上座に座る、家長たるラ・ヴァリエール公爵は、美髯に当てていた手を離すと、握り締めた拳をダイニングテーブルに叩きつけた。鈍く重い響きがダイニングルームに響き渡るが
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