第十一章 追憶の二重奏
第一話 烈風
[13/20]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
を案じる陛下のお言葉、身に、心に染みました。そんな陛下の思いを無駄にしないためにも―――」
「はい、はいっ!」
ぱあっ、とアンリエッタの顔が輝き―――
「二度と心配をかけることができないよう調教します」
「―――ッッ!!?」
いや、調教ってッ!!? という思いがその場にいる全員の頭に浮かぶ。決して声に出してツッコミはしない。したらヤられる。そう本能で理解し、アンリエッタと護衛の銃士たちが固まる中、カリーヌは右手を上げる。城の天守に影が差し、豪風をなびかせながら巨大な黒い影が降りてくる。轟音と激しい砂埃を立てながら着地した老いた巨大な幻獣―――マンティコアが砂埃の中から姿を現す。
蛇に睨まられた蛙のように固まるアンリエッタたちを尻目にマンティコアに飛び乗ったカリーヌは、マントを翻しながら声を上げる。
「始祖から与えられた陛下の王権は神聖不可侵。その御名をもって発せられた国法もまた然り。陛下の王道をお守りする国法を二度と破らぬように、我が娘を厳しく罰しますので、どうぞ寛大な下知をいただきたく」
―――さっきからそう言っているではないですかッ!!
声を大にそう叫びたかったアンリエッタだが、先程から起きる様々な事態に心が混乱し、頭も身体も正常に働かない。そうこうしているうちに、マンティコアに跨ったカリーヌが空に駆け上がっていく。砂埃が広がり、咄嗟に目を閉じるアンリエッタ。次に目を開けた時、空の向こうに見えるマンティコアに乗ったカリーヌの姿はゴマ粒ほどの大きさになっていた。肩を落とし、呆然と空を仰いでいたアンリエッタは、口の中に入った砂利ごと唾を飲み込むと、ポツリと乾いた声で呟いた。
「……わたくし、ルイズに会えるのかしら………」
その問いに、応えられる者はいなかった…………。
ラ・ヴァリエール公爵の領地は、ゲルマニアの国境と接しているため、馬車で国境を越え三時間も進めば、ラ・ヴァリエール城の尖塔の頂きが視界に入ってくる。士郎は窓の向こうに見える尖塔を眺めながら、隣で行われている会話を耳にしていた。
「ま、まあ、でも、わたしの知っている限りじゃあ、ここ三十年彼女がコレといった騒ぎを起こしたとは聞かないし、いくらあの『烈風』のカリンだとは言え、年食って大分丸くなってるんじゃないかい?」
「……は、ははは……知ってるようで知らないのね……年食って丸くなるような人じゃないわよ」
ロングビルが引きつった顔で、しかしそれでも、顔を伏せて死んだような表情を浮かべるルイズを励まそうとするが、ルイズはただ乾いた声で笑うだけであった。二の句が告げないでいるロングビルを、深く席に腰を下ろしたキュルケが背もたれに背中を預けながら顔を横に向け、目を細めて隣に座るロングビルを見る
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ