第十一章 追憶の二重奏
第一話 烈風
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「ふぅ……無事なのは良かったのですが」
椅子の背もたれに寄りかかり、頭上を仰ぎながら、アンリエッタは視線を下に―――机の上に広げられた一枚の手紙と、その隣にある報告書に向けられる。手紙は昨日届いたルイズからの手紙であり、報告書はガリアとサハラの境の町にある、アーハンブラ城で起こったとある出来事についてのものであった。報告書は各国に放っている諜報員の中でも、ガリアに潜ませたものからであった。報告書の文字は、書き手の心情を表しているように、字体は崩れ、乱れていた。
報告書には五日前、アーハンブラ城の夜空に、突如三つ目の月が現れ、現れた時同様唐突に消え去ったとあった。エルフとの国境沿いの町であることから、エルフの侵攻の可能性もあると、この報告は最速で送られ、受け取ったアンリエッタは、一人で判断するのは危険だと、直ぐにマザリーニ枢機卿に相談をした。マザリーニは情報が少なすぎると、今は静観しておくようにと忠告をしただけであった。アンリエッタも同じように考えていたため、素直に同意し、続報を待っていたのだが、
「これ多分……いえ、きっとシロウさんですよね……」
手を伸ばし、テーブルの上に置かれた手紙を掴むと、天井を仰ぐ顔の前にそれを広げる。
「エルフを倒して、ミス・タバサとその母親を救出ですか……」
内容はアーハンブラ城に囚われていたタバサとその母親を無事救出し、現在はゲルマニアのツェルプストー家の城に世話になっているというものであった。アーハンブラ城で何があったかは特に詳しくは書かれてはいなかったが、三百人近い兵士を眠らせ、タバサたちの監視をしていたエルフを一人撃退したことは書かれていた。
エルフ。
そう、エルフがいたのだ。
人間を蛮人と蔑む彼らが、何故、タバサ親子を監視していたのか? 理由は全く不明であるが、少なくともガリア王政府とは何らかの繋がりがあるのは間違いはない。
エルフは強力な力だ。それが大国であるガリアの味方をしているとなれば、それは恐ろしいことである。
だが、
「……ですが、これも交渉しだいですね」
エルフは強力な力だが、それは弱みにもなる。
エルフと人間の中は悪い。何百ではなく何千年にも渡って殺し合いをしているのだ。仲が良かったら嘘だろう。最悪といっても間違いではないのだから。そんなエルフとガリアが手を組んでいたとするならば、その他の国と同盟を組み、これと対抗するのは比較的容易になるかもしれない。それに、ガリアがもしこの事実を隠そうとするのならば、それこそ交渉次第では色々と引き出すことが出来るかもしれない。
しかし、現在の所ガリアから特に何の変化も見られない。アーハンブラ城での出来事についてやらにも、その他についても、だ。
不気味なほどにガリアは
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