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IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜可能性の翼〜
第二章『凰鈴音』
第三十五話『風光る』
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よりは、自分が引っ越す前の生活を取り戻したくて、代表候補生としてこっちに帰ってきたんだね……?〕
コンソールの向こう側で、拓海が鈴の言葉の先を察して口にする。
鈴は無言で俯きながらも、小さく頷いた。
「ホントに馬鹿だよ、お前は……」
率直な感想を述べる修夜だが、その言葉にいつもの皮肉さは無かった。
「“往く川の流れは絶えずしてしかも元の水に非ず”……」
不意に白夜がそんな言葉を口にし、一同が彼女に向き直る。
鴨長明の随筆『方丈記(ほうじょうき)』の冒頭であった。
「鈴、お前さんの意思は誰にも咎められんだろうさ。しかし、だ。過去は過去、決して戻りはしない。そればかりは、この夜都衣白夜であってもどうにもできん」
佳人はただ静かに、しかし諭すようにはっきりと言い放った。
一瞬にして、重い沈黙が室内を占めていく。

――こんこん

そこへ扉を叩く音が、保健室の中に響いた。
「失礼します、一年2組のカワハラです」
声の主は、鈴のクラス担任だった。
思わず顔を見合わせた一同だったが、そのそばから白夜が独断で招き入れてしまった。
扉が開くと、そこには赤縁眼鏡にスーツ姿の女性……と、毛羽立った筆のようにまとめた髪が特徴的な少女がいた。
一同の中で、鈴と修夜だけはその顔に見覚えがあった。
鈴に代表を下ろされた少女・外崎(とのさき)美生(みよ)である。
保健室に入ってくるなり、外崎は意を決したように鈴のもとに佇んだ。
しかめっ面で自分を見つめる外崎に、鈴はつい下を向いて視線を逸らしてしまう。
また重苦しい空気が、室内を支配しようとしていた。
「あの……」
最初に言葉を発したのは鈴だった。
きっと負けた自分を責めに来たのだと、無残に打ち負かしてまで奪ったクラス代表の椅子を取り戻しに来たのだと、そう覚悟した。
だから素直に謝ろうと、そう思った。
「謝らないで」
ところが外崎の口から、思わぬ言葉が飛び出してきた。
「今日負けたのを謝るんだったら、今度は絶対に勝って。それだけだから」
突っぱねるような辛辣な言い方だが、言葉の意味は鈴の考えていたものとは違っていた。
「負けたから代表降りるとか言ったら、今度こそ許さないんだから……!」
外崎の言葉に戸惑いが隠せず、鈴はただ呆然と困惑する。
その一方的で強い言い方に、カワハラが止めに入ろうと少し動く。だがそばにいた白夜が無言で制し、見守るよう引き留める。
「……ホントは、もっと色々言ってやろうって思ってたのに……。最後にあんなの見せられたら……、あんなにすごい戦い方見たら……何にも言えないじゃない……!」
気丈には見せているが、その声は湿り気を帯び、言葉の端々には幾分かの悔しさと、わずかながらの羨望が混じっていた。
それでもなお、込み上げるものを喉の奥に押し込め
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