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IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜可能性の翼〜
第二章『凰鈴音』
第三十五話『風光る』
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向いた。
「何、勝手に帰ろうとしてんだよ」
そのそばから、今の鈴には一番声をかけられたくない相手が、唐突に話しかけてきた。
「うるさいわね、ほっといてよ……」
煩わしく思いつつも、一応の返事はしておく。
「そんなフラフラなのを放っておけるかよ」
まったくもっていらぬお節介だが、自分が疲労困憊なのは隠しがたい事実である。
それでも勝者の温情に与ることなど、敗者としての最後の矜持が許しはしない。
だからせめて、目いっぱいの意地を張ってみせる。
「ふん、あんたのお節介なんてごめんだわ。どうせ世話を焼いたそばから小言しか言わないし」
嫌味をうんと込めて、敢えて悪態をつく。そのまま呆れで帰れば、万々歳だ。
この頑なな鈴の態度に、修夜はいつものように溜め息をつく。
「そうだな……。前半じゃ途中で逃げ越しだったし、中盤は変な小細工使って暴れ回るし、後半はお前が本気出さないから煽らざるを得なかったし……」
「ちょっと、最後のは何よ、最後のはっ!?」
いつものように説教節を回す修夜に、無視を決め込もうと考えていた鈴だったが、最後の一言には思わず反応してしまった。
そのかどについては、さすがに抗議しようと思い立って声を上げようと口を開く。
だがそれ以上に早く――

「でもまぁ、最後の方は、イイ感じだったぜ。楽しかったよ」

偽りのない真っ直ぐな言葉と、小憎たらしい笑顔を向けられてしまった。
こうなると抗議の声を上げようにも、どうにも気勢が削がれてしまう。
結局、鈴は喉まで出かかった文句を、渋々引っ込めることにしたのだった。
その直後、鈴の開放回線(オープンチャンネル)に通信が舞い込んできた。
〔凰さん、お疲れ様でした。今回は、残念でしたね……〕
Aピットルームにいる真耶からの通信だった。
後ろには千冬と楊の姿も見てとれる。
その千冬に通信が切り替わる。
〔ご苦労だった、凰。課題点が山積みで、本来なら小一時間の説教も辞さないところだ〕
いつもながら硬い表情と語気の強い声に、鈴の顔も自然と険しくなる。
過去に特大の雷を落とされて以来、この声と表情には自然と身構えてしまう。
またいつものように、容赦のない叱責が飛んでくるか。
〔……が、今回は最後の展開に免じて、不問としておく。次からは己の戦い方を貫け、以上だ〕
しかし千冬は、それだけを言い終えてあっさりと引き下がり、通信を切ってしまった。
鈴も思わず拍子抜けして面食らうのだった。
そもそも“最後の展開”に、それほど特別なことなどあっただろうか。
まるで狐に抓まれているようで、少女は段々と混乱しはじめる。
〔凰候補生、聞こえていますか?〕
そこに楊が通信を入れてくる。
「こ……、今度は何よ……!?」
また変なことを言われるかと、鈴は思わず身構える。

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