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IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜可能性の翼〜
第二章『凰鈴音』
第三十三話『颯(はやて)』
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のような技能は記されていませんでした」
戸惑いを隠せないのか、楊の声にいつもの事務的な冷たさはなく、自信にも欠けていた。
「報告にもなかったのか?」
「……はい」
「日録や指導教官報告にもか?」
「……なにも」
眉をひそめながら答える楊を、千冬はじっと見つめる。
「なら、凰の担当だった指導教官は誰だ?」
「……“おそらく”は、清周英指導教官だと思います」
ここに来て、ひどくあいまいな証言が飛び出す。
「おそらくって、何でそんなにぼんやりしているんですか?」
真耶の問いかけに対し、楊はさらに眉をひそめて苦々しい顔をした。
「凰候補生を口説き落としたのが、他ならぬ彼だからです」
「彼……、つまり男なのか?」
千冬が意外そうな声を上げるのを一瞥すると、眼鏡の位置を直しながら楊は話を進める。
「三年ほど前に、本省の競技会が肝煎りで雇った男です。最初はいけすかない優男かと思いましたが、いざ登用すると、それまで首を縦に振らなかった資質者たちを納得させ、指導では冷静な分析と的確な指摘で有能な人材を育成していくなど、その才気で瞬く間に訓練学校で発言権を持つほどになりました」
「……気にくわない、といった風だな」
「色々と話題に付きない人物ですので……。何より、あの慇懃無礼な言動は癪に障ります」
あまり万人受けをする人物ではないらしい。
「それに……親友が、彼に妹を“壊された”らしんです……」
千冬の遠慮のない指摘に対して、楊は思わず本心を明かした、それもとんでもない事実付きで。
「こ……壊されたって……!?」
「凰候補生の前年に、その子は本省の訓練校で成績を伸ばし、あの男の指導下になりました。本省での苛烈な競争を何とか勝ち抜き、一年目の山を越えようとした頃に……」
驚く真耶への反応もそこそこに、楊は淡々と話しを進める。平静は装っているが、語気には暗いものが感じられた。
「……倒れたんです、あまりに初歩的な操作ミスによる事故で大怪我を負って」
「何だと……?」
「現在はカウンセリングとリハビリで、なんとか日常生活は送れるようになりました。ですが、ISを操縦できる可能性は……」
楊はそこで言葉を切って俯き、それ以上を口には出来ずに終わった。
押し黙る楊に、真耶は慰めの言葉を探そうとするも、上手く見つからない。
「それで、肝心の確証は?」
それでも要らぬ同情はせずとして、千冬は先を問う。
楊も千冬の態度の方が楽に感じたのか、顔を上げて口を開く。
「噂があったんです、『清周英は訓練生で好からぬことを試している』と」
「好からぬこと?」
「清教官の周辺と成績を洗ってみたんです。結果、彼が担当した訓練生の八十パーセントが、翌年には故障や不注意の事故を起こしていたと判明しました」
不自然な数値だと、楊は断言する。

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