二十二 無明の闇
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い込んでいた心の傷を抉り出し、負い目を曝け出す。闇のチャクラに触発されたのか、じわじわと溢れ出す負の感情。
「しっかりしろ!」
何処からか、耳を聾するほどの檄が飛んできた。霞の如く朦朧としていた意識がその声で持ち直し、全身に圧し掛かっていた重圧が消え失せる。ハッと我に返り、香燐は瞳を瞬かせた。
視界がぼやける。だが視野に入るのは闇ではなく金だった。ふわりと翻るナルトの髪。
「だ、ダーリン……?」
ナルトが何時の間にか香燐の眼鏡を手に立っていた。彼の姿を輪郭でしか捉えられないのは、眼鏡越しではなかったからだと香燐は気づく。
焦点がずれて像がぼけて見える。しかしながらそのおかげで零尾の視線を外せたのだ。目が悪いという事が逆に幸いした。
香燐に眼鏡を手渡しながら、ナルトは己の不甲斐無さに臍を噛む。
【表蓮華】の後遺症により少々動けなかった彼は、神農による香燐の精神攻撃を許してしまった。零尾と目を合わせてしまい硬直する香燐を正気に戻すために、彼女の眼鏡を引っ手繰ったのである。
「落ち着け。アレは心の闇を歪曲し、誇大する。目を合わせるな」
耳に快いナルトの決然とした声は香燐の気を鎮める。同時に耳障りな嘲笑が彼女の耳朶に触れた。
「よもや小娘の心の闇を照らし出してしまうとは…」
如何にも残念そうに頭を振りながら、神農が言った。先ほど以上に深く黒ずんだ闇が彼の全身を覆っている。神農は香燐の心の隙につけ込み、彼女に零尾を憑依させたのである。
世に戦乱が溢れ、人の心に闇が蔓延りし時、復活する。心の闇を喰らい生まれ、無限に成長する闇の権化―――『零尾』。
怒り・憎しみ・恐怖…といった心の負を糧とする尾獣。どちらかというとサトリの一種に近い。ちょっとでも不安の種があれば、それを敏感に感じ取り、心を見透かす。そして負の思いを闇のチャクラに変える事で、実体化が可能となる。また闇のチャクラは術の威力を倍増させる事も出来るのだ。
メスに変化した影分身をナルト本人と思い込んでいた時分。香燐の首に手を伸ばした時、神農は彼女の瞳を覗き込んだ。その一瞬で、香燐が心の傷を負っていると零尾が知らせてきたのである。
故郷消失という凶報に上辺は納得しても、心が理解を拒むのは人間の自衛本能だ。故に一見なんでもないように装いつつも、内心香燐が不安を抱くのは仕方の無い事であろう。
だが神農はそこにつけ入り、彼女に零尾を憑依させた。
闇の化身である零尾はその身を無明の闇に変え、相手を閉じ込める。そして獲物がもっとも忌み嫌う幻を見せ、絶望の淵に陥れる事で闇のチャクラを育む。神農はまんまと香燐の心の闇を自分の力へ変換させていたのだ。
嬉しい誤算にせせら笑いながら、神農は石畳に広がる障害物を尽く踏み越える。つかつかと
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