第一章
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「結局一勝だけでしたね、勝てたのは」
「ピッチャーとしてや」
「そやったな」
その通りだとだ。西本もそのことは認めた。
「あいつはピッチャーとしてはな」
「肩も壊してたんですよね」
「そうでしたね」
「残念やった」
苦い声だった。西本の今の声は。
「そやからな」
「ファーストに転向させましたね」
「野手に」
「それで一人立ちして欲しかったんや」
希望の言葉だった。過去の。
「そやけど一塁もな」
「小川選手がいますからね、一塁には」
「あの選手が」
記者達は守備練習をしている七番の男を見た。左にファーストミットを着けている彼は何処の畑か田んぼにいそうな顔をしている。彼がその小川亨だ。近鉄のベテラン選手だ。
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