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暗黒の時代
第1話
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出した。返り血を浴びることなく右手に得物を携え、駆けながらヘルメットに刺さったままのナイフを左手で引き抜き、そのまま右前方に放った。回転しながらそれは高速で飛来し、アサルトライフルを構えて標的をアイアンサイトに捉え、トリガーに指をかけようとしていた兵士の頸部に吸い込まれていき、一瞬で彼の命を奪った。

「ばっ・・・化け物・・・ッ!」

 分隊支援火器の軽機関銃を持った男は射線上に仲間が居るにも関わらず、それを腰だめの状態で乱射した。5.56ミリフルメタルジャケット弾が秒間16発の速度で銃身から発射され、鉛弾のシャワーが彼の前方に展開される。だが、フォーリシアにとってそれはあまりにも少なく、そして狙いも不確かなものだった。火薬の力で暴れ回るそれは暫く真鍮を降らせながら隊員の背中を撃ち抜き、誤射に戸惑う男は一瞬だけ射撃を停止した。刹那、崩れ落ちる兵士の陰から黒い物体が空高く飛翔し、男に飛びかかろうとするのを彼は迎撃するため、銃身を上に向けながら弾幕を展開させようとするが、弾丸は見当はずれの所ばかりに飛んで行き、フォーリシアはナイフをヘルメットの頭頂部に突き立て大柄な男の両肩を足で蹴飛ばすと彼は真鍮の海に沈んでいった。
 地面に降り立つと、そこで最後尾の少年と目と目が合った。ブラウン色の瞳は怯えきっており、手足はカクカクと小刻みに震えている。銃を構えてはいるが、とても撃てるような状態ではない。

「貴方も、この人達と同じなの」

 この上ない殺意と憎悪を込めて少女は彼に言い放つ。尻餅をついた彼は銃を手放し、手で顔を覆った。

「・・・いい子」

 短く刈り込んだ黒髪を撫でると、彼女はブラッドの方へゆっくりと顔を向けた。その瞬間、何の迷いも無く前腕部に貼り付けられた防弾プレートで顔を覆った。そこに伝わる衝撃。常人なら骨折、転倒してしまいそうな激しさだったが、漆黒のライトアーマーを身に纏った者はそこを一歩も動かなかった。

「くそっ、くそおッ!」

 ブラッドがフォーリシア目掛けて9ミリ口径の拳銃を乱射する。銃火の中、彼女はうずくまる少年を庇う様にその場を動かない。弾頭が潰れた鉛弾は少女の足元に散乱している。
フォーリシアは12の銃声が止むのを待つと腕を下に垂らして僅かに姿勢を落とし、一気にブラッドとの距離を詰めて腹部に「軽く」正拳突きを放つ。すると彼の身体が浮き上がり、くの字に折り畳まれながら後方に吹き飛ばされた。彼女は大地に突き刺さっていたコンバットナイフを彼の元に無言で投げる。
 辛うじて意識のあったブラッドはナイフと彼女を交互に見ると、ナイフに手を伸ばした。
 その瞬間、辺りに重厚な銃声が鳴り響き、目標の左頭部に命中した12.7ミリ弾はソフト・ターゲットの中で運動エネルギーを一気に解放し、頭部を跡形も無く吹っ飛ばす。

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