20years ago ”Beginning of the world”
#01
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里《ゆうり》が存外に薄い反応を返したことを受けて、がっくりとうなだれた。
「おいおい、反応薄いなぁ」
「いや、そんなこと言われても……私、これが平常運転だしねぇ。でも、感動してるのはほんとよ」
「わかるけどさ……なんか、そういうのって外見に現れないと不安になるのが俺という男の性であって……」
三か月前から付き合い始めたこの少女は、感情が表に出てきにくい。より正確には、表情の変化が『平坦』なのだ。一定以上に表情が変化しない。普通に驚いている時と、驚愕で言葉も出ない時、喜んでいる時と、感動で泣きそうなとき。内面は大きく違うのに、両方ともそれぞれ同じ表情なのである。
幸春は、どちらかというと相手の表情や反応を見て次の行動を考えるタイプの人間だ。優里はあらゆる面で幸春とぴったり合致する、まさしく『理想の女性』であるが、この一点だけは非常に不便であった。なにせ、相手がイラついているだけなのか、それとも激怒しているのかも分からないのだ。どういう風に声を掛けたらいいのかも分からない。
「VR技術がここまで発達したのも、そのVRゲームのおかげなんだね」
「まぁ、そうなるわなぁ」
幸春は、窓の外から降り注ぐ太陽光を見て、呟いた。蒼天第一高校の学食スペースを照らす日光は、本物の太陽光ではない。実際の蒼天市の空は、進みすぎた科学技術による大気汚染で太陽すら見ることがかなわない。《蒼天》の名が泣く。しかし、人間という生物は太陽光がなければ生きていけない。光合成をおこなう植物とちがって、人間には日光が直接生命活動に大きくかかわるわけではないが、太陽光がなければ倦怠感が募るし、病気がちになる、という話もあるらしい。
それを改善したのが、AVRによる《人工太陽》だ。東京や埼玉、そしてAVRの先駆けである蒼天市で重用されているこれは、都市上空にAVRによる太陽の光を再現する物だ。四十年前、否、二十年前であれば決してできなかった技術だ。
「この植物だって、実際のところAVRなわけだしね」
窓辺に置かれた観葉植物の葉っぱを、さわさわと指でさわる優里。そう、この植物も、AVRのたまものだ。
現代のAVRが、従来のVR技術を大きく引き離して、わざわざ『拡張仮想現実』と呼ばれている理由。それがこの、『質量をもったVR映像』だ。一体どういうシステムで成り立っているのか、幸春のような素人には全く持って理解できない。
クラスで最も頭が良いとされる京崎に話を聞いたところ、ワケの分からない理論を持ち出し始めたので二秒で取りやめさせた。それほどまでに、AVRは複雑で、画期的な技術なのだ。
「……で、幸春はどうして私にいまAVRの話をし出したの?」
「っと、そうだった」
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