第二話 「宇宙の彼方にカレーパンを」
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器というのは本当のようだ。
春香の先輩はゲラゲラと腹を抱えて笑っている。今PCの画面の向こうに行く力があったなら、真っ先にこの人を殴りに行きたいと思った。
「うぅ……もうだめだ、天国のお母さん、いまそちらに行きますぅ……」
春香は両手で顔を覆い、べそをかきながら独り言を言っている。
もはや万策尽きた。いや、それは正確ではない。ババ抜きで相手が出してきた札が、全てジョーカーだったようなものだ。
「諦めるな春香!絶対何とかするから……おいあんた!頼む!俺はこんな所で死にたくないんだ!他に武器はないのか?!」
この状況から抜けられるのなら、何をやってもいい。そんな心持で、彼女に尋ねる。
「あ〜っはっはっは……!いや〜笑った笑った。流石にこれ以上は気の毒だし、本気を出すか。よし、少年。次は親指以外の全てのキーを押しっぱにしながら、ハンドルを右に二回、素早く傾けろ」
「本当だろうな?!あ〜もう、どうにでもなれッ!!」
祈るような気持ちで、彼女の言う通りに操作する。
すると、モニターには銃のマークが灯り、同時に、敵機体の脚部スラスターに火が点いた。
――
アランシアは相手の出方を探っていた。
敵は宇宙にその名を轟かせる、犯罪者にとっては悪名高き宇宙刑事である。そして自分がこの機体を持ち出すことを見越していたかのように、同じく機動警察兵器を出してきた。
このことから、アランシアは敵の宇宙刑事は相当の手練だと考えた。
カレーパンを誰にも気付かれないように購入するための装置、『存在感クリーニングくん』を打ち消したことからも、それは明らかだと思った。
今現在の敵は奇妙な装備を入れ替えして、動く気配もないが、それすら罠だと考えていた。
実際は宇宙ノイズキャンセラーくんの出す波長で、存在感クリーニングくんの効果が打ち消されただけの、単なる偶然であり、敵機体が動かないのもコックピット内でドタバタが繰り広げられているだけだった。
「しかし、動かないままではいずれ敵の増援が来てしまう……ここは危険を承知で突撃するべきでしょうか……?」
一番恐れるのは増援が到着し、包囲されてしまうことだ。そうなればいくら強襲用に高機動改造されたこの機体でも、包囲の中を突破するのは難しい。
ふと、アランシアはコックピット内に貼り付けてある、家族の写真を見る。
――アランシアが八人兄弟の三女として生まれたのは、地球から遠く離れた惑星で、カレーパンの産地・流通拠点として有名な地だった。しかしカレーパンで名を馳せたのは今は昔。何百年にも渡る過剰な宇宙香辛料と宇宙小麦の採取で、惑星の環境は悪化。現在、主だった産業は天カスの製造しかない、廃れた星となった。
家は貧乏だったが、両親はアランシアと兄弟に心配
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