第五章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第五章
「あの二人に匹敵する」
「そこまでですか」
「彼だけは別だからな。しかし」
「しかし?」
「守備は大したことがないだろう」
それが広岡のバースに対する評価であった。
「恐れることはない。守れない男はそれだけで穴になる」
「そうですね」
「それは」
パリーグの人間だからこそわかることであった。パリーグには指名打者制度がある。これは大抵打つのはいいが守れない選手がなるものである。それはパリーグの人間ならば誰でも知っていることである。
「そこを突けばいい。それだけだ」
「では阪神には」
「勝てる」
平然として答えた。
「間違いなくな。ただ」
「まだ何かありますか」
「応援には注意することだ」
今度出してきたのは阪神の応援に関してだ。
「それですか」
「あのチームのファンは特別だ、昔からな」
巨人の人間であったからこれもよく知っていた。
「パリーグの、いやどの球団の比でもない
「それは知っていますけれど」
「それでも」
「いや、それは実際に見ないとわからないものだ」
広岡はそれを軽く見ようとする彼等を嗜めるのであった。
「凄いというものではないからな。だから」
「何かされるのですか?」
「ラジカセを用意しておいてくれ」
彼はそうスタッフに告げた。
「ラジカセを?」
「そうだ。それを練習中に大音量でかけてくれ」
こう頼んできた。
「六甲おろしをな。いいな」
「そこまでされますか」
「飲まれたら終わりだ」
彼は言う。
「阪神ファンにな。それも注意しておいてくれ」
「わかりました。それでは」
「うん。後はまあ」
ここで吉田の顔が脳裏に浮かんだ。そのうえでふと呟いた。
「吉田は私より慎重な男だが。何をしてくるかな」
彼はそれも警戒していたが一つだけ見落としているものがあった。そしてその見落としていたことによって苦い顔をする破目になるのであった。
ペナントはもうあっという間であった。呆気無く、しかし熱狂的に阪神の優勝に終わったのであった。フィーバーとまで言われた宴はここで第一幕を終えた。
「よっしや、次は!」
「ライオン退治や!」
話は日本シリーズに移っていた。それしかなかった。
「けれど西武は強いで」
「しかも率いるのは広岡や」
阪神ファンの多くは彼を巨人と同じと見ていた。巨人のショートだったからだ。
「手強いで」
「勝てるか!?」
「勝つに決まってるやろが」
無意味なまでに強気になるのも阪神ファンである。この時がそうであった。
「何でここまで来て負けるねん」
「そやろか」
「大丈夫やろか」
どんな負け方でも有り得るのがこのチームだ。どんな勝ち方も負け方も華麗なまでに絵になる。それはこの時からである。こんなチームは
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ