暁 〜小説投稿サイト〜
月見草
第二章
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話

 彼は西本を認めていた。その気持ちを隠すことはなかった。だが彼は自分のことはこう言ったのであった。
「けれどわしにはないな」
 また自嘲めかして言うのである。
「わしは月見草や。現役もそっと終わった」
 西本の引退の前年にユニフォームを脱いでいた。この時長嶋が監督を退任し王が引退した。それに完全に隠れてしまったのだ。
 その実績を考えれば寂しい引退である。そのことを言っているのだ。
「まあそれがわしや。寂しいだけましやな。石投げられて終わるよりは」
 最後も自嘲めかした言葉だった。しかし彼はそれから十年の時を置いてヤクルトの監督になった。お世辞にも強いとは言えないヤクルトを三回も日本一にさせた。 
 これにより野村は知将と謳われた。しかし彼は言うのだった。
「世の中八回もシリーズに出た人がおる」
 明らかに西本のことだ。
「その人に比べればわしはまだまだや」
「ですが三回も日本一になったじゃないですか」
「そうですよ」
 周りはその彼にこう言うのだった。
「それはやっぱり凄いことですよ」
「滅多なことじゃないですよ」
「三回日本一になって五回シリーズに出てもや」
 しかし彼はその周りにまだ言うのであった。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ