16話
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クの前に、数体の亡蟲の死体が現れる。ボクは死体の持つ斧を手に取り、それから他の斧と見比べた。
作りが粗い。しかし、金属を加工する術を亡蟲は知っている。そして、その技術を伝えていく術も、亡蟲は保持しているのだろう。
知能が存在するならば、支配制度が存在するはずだ。王の役割を果たす個体が必ず存在する。軍事的権限を持った将軍も存在する可能性が高い。官僚機構に似た組織も存在するかもしれない。
『これが私と亡蟲の力量の差です。カナメ、心配は無用です。私にはあなたを守る力がある』
自然と、唇に笑みが浮かんだ。
確かに、今の火力差では亡蟲たちに勝ち目はない。あれだけの投射量を誇るラウネシアの火力に対し、亡蟲には原始的な近接武器しか存在しない。このままでは勝負にならない。
しかし、ボクは既に知っている。ラウネシアに王手をかける手段を、ボクは既に知っている。史上最悪の戦争形態を、ボクは知っている。
ボクはゆっくりと森を見渡した。
亡蟲は恐らく王と将軍をシステムとして切り離している。コミュニケーションが可能であるならば、亡蟲に与する事も可能だろう。ボクはこの戦争の勝ち方を既に知っている。不利な戦闘を強いられている亡蟲を率いて、ラウネシアの圧倒的な火力を無効化する事も不可能ではない、と思った。
寝返り。
頭の中に、そんな馬鹿馬鹿しい空想が渦巻いた。
亡蟲の対話能力によっては、選択肢の一つになるだろう。
しかし、ボクはラウネシアがどれほど不利な状況に陥っても、その選択肢を選ぶ事はない。
目の前に、広がる大自然。
幼い頃から、ずっと夢を見ていた。
人がいない世界。
植物だけが支配する世界。
ボクと会話ができる植物がいる世界。
幼少期に何度も夢見た世界。それが、目の前にある。
『カナメ。不安に思う事はありません。私はこの戦いに勝ちます』
違う。ラウネシアは負けてしまう。
肺腑の中まで森の空気を吸い込んで、それから広大な森を見上げるように息をついた。
いい。生存確率はどうでもいい。ボクは、この植物だけの世界を守りたい。そのために動いてみせよう。
「ラウネシア。知っていますか。戦争には落とし所が必要なんです。戦術的勝利を重ねるだけではだめなんです」
恐らく、ラウネシアにこの声は届かない。だからこそ、ボクは言わなければならなかった。それは、ボク自身に向けた確認の言葉。
「ラウネシアの落とし所は、どこにありますか」
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