暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第十一章 追憶の二重奏
プロローグ 恐怖の実家
[1/2]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
 ゲルマニアの深い森の奥。そこに広がる霧が漂い、黒く染まった木々の森に、フォン・ツェルプストーの城はあった。その姿形は、トリステインのものとは違い、些か品やら協調性が見えなかった。
 造られてから永い時を経たのだろう、石造りの壁には罅や時による侵食が所々に見える。が、城の他の所々には、罅や侵食が見られないものも多くあった。それは、同じ時に造られたものではないことを示していた。増築されたと思われる場所は、無秩序に、また無計画に築かれたのだろう、それが歴史ある建造物を歪なものと感じさせていた。場所場所によってトリステインやガリアの古代カーペー朝の様式のものもあれば、アルビオンのものもあり、その全てが協調をまるっきり無視し、無理矢理纏めたように造り上げている。それぞれの国の貴族の者が見れば、誰もが顔を顰めるような城であった。とは言え、そのようなものが、変化と革新の国―――火の国ゲルマニアに相応しいと言えるのかもしれない。
 その城の一室、一際派手で、広い部屋―――キュルケの部屋の中に設置されたテーブルを囲む、タバサを除く学院のメンバーの姿があった。



 テーブルを囲む者たちの顔色は悪く、緊張に引き締まっている。
 彼らの視線はテーブルの上に置かれた一枚の手紙に向けられていた。上質の羊皮紙で出来た封筒には、トリステイン王国の花押―――百合の紋章の姿がある。つまりそれは、トリステイン王国女王アンリエッタからの手紙であった。
 それは返事の手紙であった。



 昨日の夜、タバサとその母親を連れガリアを脱出した士郎たちは、ここ、キュルケの実家であるゲルマニアのフォン・ツェルプストーの城に到着した。キュルケの実家に着くまでには、様々な出来事があった。やはりアーハンブラ城での戦闘は余りにも目立ち過ぎたのだろう。アーハンブラ城から脱出した早朝には、既に街道にガリア軍による検問が行われていた。だが、ロングビルやキュルケの口八丁手八丁、そして変化の呪文などによりその全てを突破することに成功した。とは言え、それが可能であったのは、地方軍兵士の士気の低さゆえであった。話には聞いていたが、ガリア王政府直轄の軍以外の士気は、想像よりも低いものであり、買収に応じる者もいれば、何の検索もせずに素通りさせる者もいた。
 しかし、中には仕事をする者たちがいた。
 東薔薇騎士団と名乗る、ゲルマニアとの国境に配備された隊である。それまでの検問の余りのゆるさに、油断がなかったとは言えなかった。東薔薇騎士団の団員たちは、細部まで馬車を検閲し、変装し眠るタバサを発見したのだ。無理矢理突破するかと士郎たちは身構えたが、騎士団長であるカステルモールと名乗る若い男は、「問題なし」と越境を許可した。
 ゲルマニアへと向かう馬車へ向け、彼は一部も隙のない礼を送っていた。
 無事ゲ
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ