第三章:蒼天は黄巾を平らげること その6
[3/14]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
撰さに嘆息を禁じえなかった。
占い師という立場、先行きの見えぬ将来にどうしようもないほどに失意を募らせた者を相手にしたことが度々ある。田畑が賊に襲われて台無しになり税の徴収のために家財が奪われ無一文となった農民や、元は勇猛な義士であったのに何を間違えのか山賊となり老後になって半生を後悔している男など、数えればきりがない。そういう輩は占いに返答を求めてはいない。できもしない立身出世のストーリーや、二重の虹のような夢のごとき博打を成功させると息巻いて勝手に満足して帰っていくのである。
はたして管輅の目から見て、そういう馬鹿共と丁儀はいっしょくたに見ても大した違いが見当たらなかった。ただ身体が若いか老いているかの違いで、千載一遇の大博打にすすんで突っ込んでいく危うさが見られていた。救いようのない愚昧の輩である。
であるからこそ、煽る分には面白い。破滅するなら勝手に破滅するがいい。世を掻きまわしてこそ占い師は生きるための糧を貪れるのだ。
「ここまで馬鹿な奴は久しぶりに見たな。面白いぞ、丁儀」
「光栄の至り」
「お前の浅はかな策では心許なかろう。心の広い私がお前の策を万全とすべく力を添えてやろう。なに。わしほどの者なら、仕込みは簡単だ」
「期待していよう。どんな過程であれ、あの方々が生き残れるならそれでいい。・・・おい、兵士!銅鑼を鳴らせ!今日はもう十分に勝った!そろそろ撤退させろ!」
「お前、戦術は分からなかったのではないのか?」
「どこで事を仕舞にするくらいなら俺でも分かるわ、爺。伊達に『あいどるふぁん』を続けていないからな」
「その『あいどるふぁん』とやらは、愉しいのか?」「人生が様変わりするぞ。華やかに、煌びやかになる」
いたく真面目に答える丁儀の背後、街の正門に置かれた鐘楼からガンガンと大銅鑼が響き渡る。思わず肩をびくりとさせる程のものであったが、そのくらいでなければ遠くで勇戦する同朋達には聞こえないのであろう。
まもなく、砂煙の中で行われていた激しい旗のやり取りが無くなって徐に黄天をいただく数千もの群衆が近付いてきた。結党当初と比較して少なくなってしまった立派な軍馬に指揮官が跨り、勇壮ぶりを誇るように広宗へと帰還していく。またも官軍を退けた仲間を歓迎すべく、城を守備していた者達は喝采し、共に勝鬨を上げた。城壁に佇んでいた丁儀はそれらに加わろうとせず、あくまでも冷ややかな視線を地平線の向こうにいるであろう官軍の本隊へと注いでいた。
ーーー戦闘後、官軍の陣営にてーーー
夕刻の赤い光を浴びる中、広宗を前に敗走した官軍は而してそのムードを引き摺ってはおらず、そればかりか明るい様子で早めの夕餉を取ってわいわいがやがやとやっていた。ここ最近まで温かいのに不味いという負け飯を食らっていた彼らの顔には
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ