第三章:蒼天は黄巾を平らげること その6
[14/14]
[8]前話 [9]前 最初
を天は受け入れようぞ!いざ集え、黄巾の奇跡の兵達よ!!」
祈りは叫びとなり、声にならぬ奇声へと変じた。風もないのに荒れ狂う紫炎が生贄の躰を焦がして、さらに臭いを強烈なものとしていく。遠くで、『おおっ』とどよめく人々の声を聴いて三人は儀式の成功を確信し、さらに万全なものとすべく祈りを唱え続けた。赤黒く汚れた『太平要術の書』を胸に抱えながら、大洪は官軍を呪い、そしてわが身の平和を誰よりも強く念じた。
祈祷に没頭する彼らを邪魔立てするものはいない。扉は妖術によって堅く閉ざされて、祈祷が中断させられぬ限り誰にも開けることはできない。さらには精鋭中の精鋭にして人形のように従順な護衛兵が何十人も守護してくれる。信徒の中でもとりわけ優秀な者達で、いかに丁儀であろうと三人を同時に相手取ることはできないだろう。これらが冷静さの担保となっており、なお一層の注力を祈祷に注ぐことができた。
だがそれでも、もう少し外に気を配っていたなら気付いたに違いない。戦の闘気とは無縁である本城の一角にて、甲高い断末魔が上がった事に。そこは『あいどる』という名の奇跡を最初に起こし、その名声を妖術使いの老人らに簒奪された、張三姉妹が監禁されていた部屋であった。
「お迎えに上がりました、しすたーずの方々」
姉妹らはたじろぎながら部屋の入口を見る。自分達を閉じこめていた老人の尖兵は鮮血を流しては床でびくびくと痙攣している。それを踏み越えるように、一人の胡散臭い老人が佇んでにっこりとほほ笑んでいた。握られている仕込み刀から彼が兵を倒したことが分かったが、目の前で殺人が行われた事に姉妹は怯え、そして今どうするべきかただ戸惑うばかりであった。
管輅は純真なままの彼女等の心を傷つけてなお、笑みを浮かべ、問答無用の二の句を告げた。
「さぁ。自由の大地はそう遠くは無い。この爺と一緒に、駆けていただけますな」
遠くからの兵達の叫びが、遮るものが壊されたかのように明瞭になった気がする。ついに城門が割られたか。
選択の余地は少なく、それゆえに決断の時間もいらなかったようだ。偽りではなく真の存在である張角は、青褪めながらもしっかりとうなずいた。管輅はそれに首肯して彼女等を脱出路へと導いていく。
広宗の運命が定まる時が近付いていた。
[8]前話 [9]前 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ