第三章:蒼天は黄巾を平らげること その6
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噛みして今の状況を恨むも、人手不足だけはどうにもならない。せめて姉妹達が逃げるまでは黄巾の指揮官として振る舞わねば自分の命すら危うい。何とか時を稼いでいる間に、あの占い爺が事をうまく運んでくれるよう祈るしかなかった。
固く閉ざされた城門に官軍がいよいよ近づいてきた。牙門旗の字がはっきりと見えそうになる頃、兵の一人が怯えながらに言う。
「丁儀様、御指示を!敵の第一波がまもなく城壁に辿り着きます!」
「分かっている。旗は・・・『袁』と『公』が先鋒か。ならば遠慮はいらん!弓兵は一斉発射の後、各自打ちまくれ!敵兵は城壁に登らせるな!梯子は全て蹴落とせ!城門を決して割らせるな!・・・うん?おい!そこのお前!」
「はっ」
「あいつらはなにをしようとしている!!今は戦っている真っ最中なんだぞ!!」
兵等が急ぎ防衛に取り掛かる中、場違いな雰囲気をした者達が丁儀の目に留まった。その者らは城門から少し離れた所にある儀式用の大きな盃ーーー前に丁儀が準備したものだーーーに近付いて、四方を固めるように座り込んだ。むくむくと上る紫煙が僅かに色濃くなったように見受けられた。
疑問に兵が応えんとするが、丁儀はその者にどこか違和感を覚えた。悪夢のように現れた官軍に恐怖する兵達とは違い、男はやけに冷静な面持ちだ。瞳に皓皓としたものを湛えながら男は応える。
「あれは『張角』様の兵です。これより祈祷を行うため、兵をあそこに遣わしたと聞いております」
「なに?俺はそんな事・・・」
「知る由もないでしょう。何せあなたは姉妹の側に付いているのですから」
冷えちいた口調。鋭く覗いた汚らしい犬歯。あるがままに男の手が腰元の剣に伸ばされており、指が鞘に絡みついて徐にそれを抜かんとしている。
ーーーこれは拙い。
丁儀は後ろに退かんとする。男は目をかっと開くと瞬間、居合にて斬捨てんと剣を抜く。両者の間は数歩もないため、男にとっては二秒もあれば十分に相手を弑することができる筈であった。しかし丁儀は詰め寄ってきた男の手を抑えると、後ろへと倒れながら男の腹を蹴りあげて、巴投げの要領で投げ飛ばす。抜刀敵わぬ姿勢のまま男は宙を舞い、下に積み重なっていた木材の束につっこんでしまった。
何とか危機を脱した丁儀は飛来してくる官軍の矢に気を付けながら身体を起こし、周囲を見て表情を硬くした。つい先程までは闘志あふれる黄巾の兵達が丁儀を囲っていて、彼の指示をよく聞いてくれていた。だがその者らは怯えた顔をしながら方々へと押し退けられ、代わりに別の者達が丁儀を包囲している。その手には一振りの剣があり、あきらかな殺意を彼に向けている。大洪ら自称『張三兄弟』が、憎たらしくも、自分に遣わした従順な私兵である事は明白であった。
斬りかかるタイミング見計らうようにじりじりと歩を
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