第一章
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魚屋繁盛
摂津屋と河内屋は同じ商店街にある店だ、どちらも魚屋だ。
しかも向かい合っている、それでいつもだった。
店の親父同士はいつもライバル意識を持っていた、商店街に行けばいつも威勢のいい声がこれでもかと聞こえてくる。
「秋刀魚安いよ!」
「活きのいい鰯があるよ!」
「海老はどうだい!」
「烏賊あるよ!」
こうそれぞれ言うのだ、店の前において。
そしてその親父同士稲葉鉄火と真中雲丹はいつもだった。
目が合うとだ、すぐにだった。
店のことからお互いのことになる、稲葉の親父が言うには。
「おいこのガンガゼ!」
「誰がガンガゼだ!」
真中の親父もすぐに稲葉に返す。
「俺の何処がガンガゼだってんだ!」
「手前が雲丹だからだ!」
彼の名前から言う仇名だった。
「いつも言ってるだろこのすっとこどっこい!」
「言ったなこの博打野郎!」
真中の方も稲葉に返す、彼を指差したうえで。
「手前こそ何だ糞漏らしやがって!」
「そりゃ何時の話だ!」
「小学校一年の時にクラスで糞を漏らしただろ!」
二人は幼稚園から高校まで一緒だった、その間ずっと喧嘩ばかりで今もなのだ。
「だから糞漏らし野郎なんだよ!」
「そういう手前もだろうが!」
「俺もだと!」
「そうだ!幼稚園の小便漏らしただろ!」
「糞と小便じゃ全然違うだろ!」
「同じだろうが!」
「何処がだ!」
こんな言い合いを商店街のど真ん中でする、そして。
いつもだ、言い合いで終わらず殴り合いになるのだった。
「この野郎!」
「くたばりやがれ!」
その彼等を見てだ、商店街の客達はいつもやれやれといった苦笑いでこう言うのだった。
「またあの二人だな」
「稲葉さんと真中さんか」
「あの二人毎日一回は喧嘩するからなあ」
「悪い人達じゃないのに」
「全くだな」
「店の魚とかはいいってのに」
店の親父達は毎日喧嘩だ、むしろそれは商売より熱中していた。
町の商工会議所の人達もだ、やれやれといった顔で言う。
「あの人達はああだからね」
「店はどっちも繁盛してるけれど」
「町の風物詩になってるし」
「まあ放っておいてもいいかな」
「どっちも拳だけで刃物は出さないし」
「いいか、子供の頃からだから」
「言っても聞かない人達だから」
もう言わないというのだ、かなり投げやりだった。
それで誰も彼等の喧嘩は止めない、それで。
二人の喧嘩は毎日行われていた、二人共家でもいつもこう言っていた。
「あいつには負けるなよ!」
「あの大馬鹿野郎にだけはな!」
「いい魚仕入れるからな!」
「鮮度には注意しろよ!」
「お客さんは大事にしろ!」
「向こうよりも綺麗にしろ!」
こう言い合
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