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ゴッホ
第二章

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「僕は忘れない、だから描かせてもらったんだ」
「そうだね、兄さんは本当はいい人なんだよ」
「ただわかってもらえないだけだというんだね」
「僕はそう思う、じゃあ」
「描くよ」
 これからもだというのだ。
「僕はね」
「そうだね、それじゃあ」
「この絵も描く、そして」
「次の絵もだね」
「何時か必ず僕の絵は」
 その派手に、かつ荒々しいまでに斬新なタッチで描かれていく絵はというのだ。
「理解される、誰からも」
「それが為にだね」
「描いていくんだ、これからも」
「じゃあ僕は兄さんのその絵を何とかね」
 テオはその兄、彼が生まれてからずっと一緒にいる彼にとっては優しい兄にこう言った。
「売るよ、そして皆に観てもらってね」
「理解される様にしてくれるんだね」
「そうするよ、だから何時か兄さんの絵は売れる」
「それもかなりの額で」
「きっとそうなるよ、僕は僕のやることをするよ」
「頼むよ、ただ」
「ただ?」
 テオは兄の今の言葉に怪訝な顔になった。ゴッホはその彼にこんなことを言ったのである。
「テオは昔から身体が弱かった」
「大丈夫だよ、今は」
「いや、気をつけた方がいい」
 テオの優しい顔を親密な目で見つつ言うのだった。
「まあしてテオは一度女から病気を貰っている」
「あの病気だね」
「僕も貰ったことがあるがあれはよくない」
 ゴッホはかつて淋病で入院したことがある、それでそうした病気には懲りているのだ。
 それが故にだ、弟に注意するのだ。
「女から来る病気は恐ろしい」
「だからなんだ」
「身体には気をつけるんだ、早死にの元だ」
「大丈夫だよ、今は妻がいて幸せに暮らしているから」
「ならいいがな」
「誰だってそうした遊びをすることはあるよ」
 娼館に行くことだ、確かにこのことは誰にでもある。ゴッホにしてもだ。
「今はしていないから」
「だといいが」
「兄さんは気にしないで絵に専念してくれるかな」
 テオが兄に勧めるのはこのことだった。
「是非ね」
「そうだね、それじゃあ」
「兄さんの絵は絶対に後々凄い評価を受けるから」
 テオはそう見ていた、幼い頃から兄と共にいるからこその愛情だけでなくそのことをわかっているからこそ言える言葉だ。
「頑張ってね」
「今日も描く、そして」
「明日もだね」
「描いて描いて描き尽くしてやる」
 ゴッホは自身のアトリエの中で理解者である弟に語った。今もその手には筆と絵の具をこれでもかと乗せたパレットがある。
「僕の世界を」
「そうしてくれるね」
「何があっても」
 描くとだ、ゴッホは言ってだった。今も描くのだった。
 だがテオが自分の店に兄の絵を出すとこれがだった。
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