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水に挿した花
第三章
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「綺麗だったので」
「それでなんですね」
「そうです、この絵も描き遂げます」
「絵は最後まで描いてはじめて絵になる」
「それは貴女が教えてくれたことですね」
「絵はそうよ。ただね」
 今度は私から言った、彼に対して。
「人と人はそうではないわ」
「人と人は」
「そうよ、人と人のことは終わりがないわ」
 私は絵を観ながら彼に話した。
「けれど終わりはあるのよ」
「終わりはなくとも終わりはあるのですか」
「そういうものよ、人と人はね」
 私はこのことがわかっていた、けれど彼は私の言葉を目をしばたかせて聞いているだけだった、全く気付いていないという感じだった。
 けれど私は彼にこのことを告げた、そして。
 絵から目を離して彼に今度はこう言った。
「今から行きましょう」
「歌劇場にですね」
「もう席は用意してあるから」
「わかりました、それでは」
 彼は今は私の言葉に笑顔で頷いてくれた、そしてだった。
 食事と歌劇、それに夜を共にいてくれた。けれど朝になると。
 まだ褥の中にいる私を置いて起き上がり服を着ながら申し訳なさそうに言って来た。
「今日はこれで」
「戻るのね」
「はい、そうさせてもらいます」
 こう言って自分で服を着てだった。
 街、自分の場所に帰っていく。私は彼を呼び止めようとすることは出来た。
 けれどそれはしなかった、ただ服を着る彼にこう言っただけだ。
「あの絵をまた描いてね」
「わかりました」
 こう言っただけだった、あの花の絵だけを。
 この日彼は朝食も食べないで帰った、それから暫く会わずこうしたことが何度か続いてそして。
 絵が完成した頃に彼は私の前から消えた、むしろ私の方から彼のところに行かなくなった。
 私は夜にバルコニーでテーブルの上に置いた花瓶の中のピンクのシュウメイギク、ピンクのその花を見ていた。
 赤いグラスの中のワインは片手にある、白い三日月の灯りの中でそれを見ながら今日も傍にいてくれている執事に言った。
「いいものね、この花は」
「シュウメイギクですね」
「この花の花言葉はね」
「どういったものでしょうか」
「色褪せていく恋よ」
 それだと。私は執事に話した。
「それなのよ」
「失恋の花言葉ですか」
「そう、それよ」
 それだと、私は話した。
「寂しい花言葉よね」
「そうですね、確かに」
「けれどね」
 それでもだと。私は花を観てワインを手にしてこうも言った。
「私はこの花が好きよ」
「それはどうしてでしょうか」
「綺麗だからよ、それにこの別れは人には必ずあるものね」
「確かに。それは」
「あるわね、絶対に」
「そしてその別れをですか」
「好きではないわ」
 別れ自体は、それはだった。
「けれどそれでも受け入れて
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