第六章
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の功績だよ」
とぼけた安武に対して笑って声をかける。
「それでどうしてそう言えるんだ」
「俺はちょっと教えただけですから」
うっすらと笑って監督に答える。
「本当にそれだけで」
「そのちょっと教えるのが難しいんだ」
監督の言葉がしみじみとしたものになった。
「それがな」
「そうですか」
「ああ。それができるから御前さんは凄いんだ」
しみじみとしたものから笑顔に戻った。
「だからなんだよ。その御前さんをコーチにしてもらってよかったよ」
「褒めたって何も出ませんよ」
「また随分とつれないな」
「功績とかそういうのは興味ないですから」
「コーチでか」
「選手もコーチも関係ありませんよ」
またしても素っ気無い言葉だった。顔はずっとマウンドの大塚を見ている。
「それはね」
「無欲だな。おっと、無欲じゃないと駄目か」
「ストッパーはね」
「けれどそれでも欲はあるんじゃないのかい?」
それも監督は笑いながらまた大塚に言ってきた。
「どうだい?そこは」
「欲ですか」
「ああ。正直なところあいつがストッパーになれるのならそれに越したことはないだろ」
言うのはそれだった。
「それでな。どうだ?」
「そうですね。それはあります」
これに関しては否定しないのだった。頷きもしないが。
「やっぱり」
「それも欲っていうんだがな。勝つ為、チームの為の欲だな」
「そういう欲ですか」
「そうした欲がないと勝てないだろ」
監督は問う。
「そうしたものだ。どうだ?」
「その通りです」
今度は頷いてみせた。完全な肯定であった。
「あいつにはそれがあります。だから教えました」
「そうだったか」
「あいつは。いけますよ」
安武の顔が微笑んでいた。さっきとは顔が変わってきた。
「これからもね」
「よし、その言葉信じるぞ」
監督はその言葉を会心の笑みで受けた。
「絶対にな」
「その言葉はあいつに御願いしますね」
「ちゃんと言っておくさ。ストッパーにもな」
丁度ここで監督は立った。安武もまた。二人はそのままマウンドに向かい大塚に声をかけに行く。見事なピッチングをしたそのストッパーに対して。今声をかけるのだった。
ストッパー 完
2008・6・5
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