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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の2:敗北
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 崩壊の始りは瓦礫の落下であった。はらはらと落ちるそれは親指ほどの大きさのものが幾つか寄合い、砂丘の小砂のような粉も混じりながら、宮殿の大広間にかたんと音を鳴らした。じっと、何処へともつかぬ虚ろな場所を見定めていた慧卓の瞳は微動だにせず、まるで時を止めた木偶人形のように佇み、頭上より振りかかる瓦礫の粉など気に留めてもいないようだ。
 対してマティウスの瞳は、冷水を掛けられた蚯蚓のように素早く動き、周囲の変化に気付いた。散々に魔術を交し合い、更に龍の尋常ならざる膂力に震わされたせいであろう、宮殿は大いに傷ついてしまい、緩慢ではあるが徐々に崩壊しつつあったのだ。ゆっくりと走っていく壁の罅や、風雨にうなされるボロ家のように揺れつつある天井を、マティウスをじろりと睨みつけた。この遺跡がやがて塵芥のように跡形もなくなってしまうのは、それほど遠くない未来の話であるように思われた。
 ふぅ、と一息吐きながら、マティウスは対峙する若人に視線を向ける。剥きだしとなったグロテスクな胸部に埋め込まれた首飾りや、ひしと握られた錫杖からは、未知の獰猛な生物が発するかのような威圧感が放たれている。言葉を変えて言うならば、慧卓が扱えきれなかった甚大なる魔力が溢れて、一種のオーラのようなものを発しているのだ。これはただ自然的に放出されているものだけに留まらず、恐らく魔術が行使される際に魔力増幅の道具となるのだろう。練り込まれた魔術をコーティングする甲殻のようなものだ。無知蒙昧な人間は得てして雰囲気だけで畏怖するものを、しかしマティウスはその本質を見抜いているが故に全く動じる事無く観察できた。
 
 ーーー面倒だ。が、退屈はしないだろう。

 これがマティウスの感想である。ちょっとやそっとの魔術で動じぬ相手であり、尚且つ、不出来な有翼の蜥蜴のように撃たれ弱く精神的な動揺を覚えやすい生物では無い。興味本位でこの古びれた厠のような遺跡に来た甲斐があったものだと、マティウスは口端に小皺を寄せた。

「ゆくぞ」

 そうぽつりと漏らしながら、指先に魔力を溜め込む。全力の三割といった程度の力である。だが牽制の一打としては十二分のものであろう。
 庇から下りる天幕を払うかのようにマティウスは手を払い、その枯れ枝のような指先から縺れ合った毛糸のように束ねられた白光の稲妻が走る。瞬きする暇も与えずそれは慧卓の間近まで迫ったのだが、不意に何かにぶち当たったかのように力を失い、かき消された。
 直後、慧卓が反撃と言わんばかりに雷撃を繰り出した。回りの空間を歪にさせる程のそれはチェスターと伍していた時よりも強いものであったが、マティウスに当たる直前でそれは弾けてばちばちと小うるさい火花と化した。見れば、マティウスの反対の手から微細なスパークが生じており、防御のために魔術を行使したの
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