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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の2:敗北
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。実家にある自分の布団にくるまる時も同じような気分であったと、訳知らず思っていた。 
 何の感慨も浮かばず、ただ茫然として空を見上げる。雨や風も流れぬ静かな世界。そこに遠鳴りのように声が届いて、慧卓の鼓膜をちりちりと震わせた。

『母さん。彼に内緒で何をしたの。ずっとびくびくしてて可哀想だよ?』『別になんでもないわ。ねぇ、ケイタクさん。私を疑うなんて野暮な真似をしたら、嫌ですよ?』

 穏やかなエルフの母子の声が左から届き、壁に跳ね返ったかのように木霊する。聞き覚えのあるものであった。母のものと思わしき深みのある声が親身な調子で語り掛ける。

『エルフはあなたに味方するわ。でもその前に、あなた自身がもっと成長する必要がある。あなたを守る利益が、私達にはーーー』
『どうしたのだ、ケイタク殿?不安なのか』

 エルフの声が途中から波にのまれ、今度は凛とした女性の声が届いてきた。一級の鍛冶師が丹念に鍛えあげた剣のごとく芯がしっかりとして、女性ならではの優しさを感じさせるものであった。
 そういえば、と慧卓は思う。先の母子と同じように、この声の持ち主と自分はどのような関係を持っていたのだろうか。こんな人知れぬ空虚なところに反芻しているのだからきっと大事に違いないのだが、声を聞くうちに初夏の太陽を浴びたような焦げ茶色の髪が思い起こされ、慧卓の疑問は露となって消えてしまった。あやされているかのごとく心が和やかになってきて、頭を働かせるのが億劫になってきたのだ。 
 声はゆっくりと跳ね返る。

『あまり自分を追い込むな。たまには私を頼って欲しい。その、私でも助けになれるなら、喜んで助けにーーー」
『誓いは正統にして、絶対なものでなければなりません。破られたりしては誓いの意味がなくなってしまいます』

 次に世界を覆ってきたのは慈愛に溢れた少女の声であった。宛ら小鳥がさえずり色とりどりの花が咲く庭園を思わせる無垢な乙女心だ。
 全ての人が恋慕の念を抱いてやまぬ可憐な容姿と山海をも抱えるような精霊に祝福された包容心。見たことのない宝玉のような琥珀色の瞳。海を思わせる清楚な淡い蒼の髪。それまでのものと少し違って、その声はよりクリアなイメージを彷彿させる。まるで自分自身と一つの糸で繋がれているかのように、その声は段々とクリアなものとなって、慧卓の胸に落ちてこようとしている。

『ハーブの香り......いつも心が休まります。今日一日を乗り越えるためにって、ほとんど毎日のようにこのお茶を飲んでいました。今では......そうではありませんけどね。だってーーー』
『今日は誕生日でしょ?はい、これ用意しておいたよ』

 突然、実体のある声が響く。心がぐらりとして瞬きをすると、世界が豹変していた。
 そこは懐かしや勤木にある自宅、マンション
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