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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の2:敗北
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り取りの前では遠慮するかのようで、風のうなりが雷の轟きに敗北し、凍えるような雪も積もった傍から吹き飛ばされていた。今積雪しているところは、幸運にも魔術の破壊を蒙らなかったところである。
 地面と平行するように走る光によって一つの家屋が貫かれ、その先に逃れていたマティウスは『障壁』を張って耐えると、光の槍を地面に刺して掬い上げるように振るった。水中の鎖のように地面を光が走り、瞬く間に家屋を真っ二つにして向こう側の相手へと向かった。しかし吹雪の中に聞こえたのは肉を爆ぜるものではなく、瓦礫が砕けるそれであった。

「ちっ。ふざけた脳味噌をしているわ!」

 戦う前の異様な昂揚感は大分治まり、その代わりに怒りじみた闘志が彼にはあった。マティウスのもっとも得意とする破壊魔法は『雷撃』であり、いくら上級の魔術師といえど完全に防げぬほどの破壊力がある。しかし無尽蔵の魔力を誇る相手に対しては決め手を欠くものがあった。慧卓の魔力は底無しの上、秘宝のためか『治癒』が恐ろしく早い。正面からの打ち合いだけで勝つには火事場の馬鹿力でもないと勝利を掴めないと悟り、マティウスは力押しという第一の手段を捨て、第二の手段を取る事とした。
 ざくざくと雪を踏みしめてマティウスは駆ける。老いた身体であっても走るのに難儀するほど弱ってはいないし、無論、負傷するような下手も踏んではいない。
 家屋の陰に隠れるように走る。相手は此方を見失ったようだ。時折、相手が放った魔術の稲妻が走ってはいたが、僅か一本を除いては全てあてずっぽうに暗い空や家屋へと外れてしまい、その一本も近くの路地を偶々掠めただけで『障壁』を張る必要性すら感じられなかった。向こうは『探知』などの器用な真似はできないらしい。

(力を持て余しているようだな。頭が回れば、私を探すくらい事もないだろうに)

 マティウスは瓦礫を乗り越えて廃屋の中へ上がり、付近に気配が無いことを確かめるとその場に屈んで懐を探った。針のような見た目をした小さな棒を取り出すと、端っこを噛み切って路地の方へひょいと投げ、再び走り出す。そして比較的形を保った廃屋の中へと隠れると、針を投げ捨てた場所へと目を遣った。

(さぁ、来るがいい。お前の動きなど読めているぞ)

 先程捨てたのは魔力を籠めた一種の罠だ。うっかり踏めばどろどろのミートスープになる。この嵐の中では辛うじて足跡は見えるだろうが、細かなものには気付かないだろう。
 ニ、三分ほど何も起きず、びうびうと風雪が荒ぶだけであった。しかしゆっくりと露わとなる気配を感じてマティウスは杖を構える。目を凝らして息を潜めていると、それまでのものとは比較にならぬ程の大きな破壊の響きが鳴り渡って、噴煙のように雪と瓦礫が宙に舞った。得物が網に引っ掛かったようだ。

 ーーー喰らえっ。

 
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