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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の2:敗北
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、枝や葉を混ぜ合わせた薬草を取り出してそれを石皿に乗せて摩り下ろしていく。『ずず』と葉が擦れ、徐々に香しいものが鼻まで上ってきた。擦り終わると、薬草から出た汁をコップに入れてあった水に落とし、匙でもって溶かしていく。淡いライムグリーンが現れて、粒のように広がっていく。
 ソツはコップを持つと室内に寝かせてある、リコの下へと運んでいく。どういう経緯かは知らないが部下曰く、嵐がくる直前にいきなり厩舎に現れたという。意識を失っていたためここまで連れてきて、今はその看病を行っているところだ。

「さぁ、リコ君。苦いですが必ず良くなる薬です」
「あ、ありがとう、ございます・・・」

 重たそうに身体を起こしたリコを腕で支えて、ソツはその口許へコップを傾けた。リコはそれを含んで喉にまで持っていったようだが、途端にげほげほと咳き込んでしまって四分の一ほどを吐き出してしまった。寝起きには辛いものがあったようだ。しかし健気にもリコはそれをぐいっと煽り、一気に飲み干した。流石は白の峰を越えようとした者だとソツは感心をする。

「その者に山の息吹を当てるべし。精霊よ、悪霊を払いたまえ。艱難辛苦の災いより我等を救いたまえ」

 祈祷がさらに続いた。びうびうと猛烈に風が唸って家の戸を震わせ、老女は臆したようにさらに語気を荒くした。「何をそんなにおびえているのですか」との問いにも、彼女は全く答えない。言葉が届いていないかのようだ。
 ソツは冷たいリコの手を握りしめ、只管に嵐を耐え忍ぶ。この嵐はいつまで続くのだろうか。リコと共に遺跡へ向かった慧卓は一体どうしているのか。じわりと掌に汗が滲んでしまったのは部屋の暖かさだけによるものではないだろう。
 吹き荒ぶ嵐の中に雷が聞こえた。霊峰にも魂があると思えんばかりの轟きで、宛ら龍の咆哮のようでもあった。 



ーーーヴォレンド遺跡にてーーー



 激しい吹雪が山を覆い、遺跡に容赦なく雪を降らせていく。巨大な龍の亡骸はすでにその大きな足先を真っ白な沼のなかへと攫われてしまっていた。あんぐりと開けられた下顎や血みどろの肌にも雪が積もり、そのまま埋もれてしまえば何時の日にかは動物史的に重要な遺産として発掘されようものであった。しかしその期待を無にするかのように稲妻が走り、淡く桃色がかっていた雪を吹き飛ばしてしまう。それを被っていた亡骸については何をかいわんやである。
 遺跡には激しい魔術の交錯が行われていた。初めは宮廷と龍の亡骸を挟むように。しかしそのあまりの激しさを見せつけて宮廷の正門を完全に破壊してしまうと、その範囲は更に広まっていき、今では居住区に戦いの場所を移していた。一つ一つの雷に膨大な魔力が込められ、まともに喰らい、あるいはその余波を受けた古い家屋はすべてただの瓦礫に変じていた。嵐でさえこのや
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