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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の2:敗北
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思うと、中心部にある螺旋階段が這う尖塔が、大地に飲み込まれるようにその荘厳とした姿を斜めに倒しながら沈ませていった。遂に自重を支えきれず、支柱が自壊してしまったのだ。
 マティウスは大きな感動を抱きながらその光景を目に焼き付けんとした。何かを無から生み出す事を喜びとする一方で、マティウスは存在しているものを無に帰す事も愉しみとする男であった。遺跡が自壊するという光景に見惚れつつ、彼は手元の光の杖をひしと握り直す。火山の火口のように舞う噴煙の中から放たれる存在感。それがふらふらとしながらも魔力を高めつつあるのを感じた時、マティウスの皺だらけの鳩面は狂犬病を患った野良犬のように醜く歪んだ。分かり難い、彼の心からの喜びの表情であった。

「嗚呼......これを待っていたのだ。未知なるものと対決できるこの瞬間を、私は待ち望んでいたのだ」



ーーー同刻:白の峰の集落にてーーー



 びうびうという凍えるような風が薄暗い山間部を通り抜け、人の名残に追いすがるかのように針葉樹がぼうぼうと生える獣道をなぞり、霊峰に築かれた小さなエルフの集落へとたどり着く。そこに人の気配は少なく、家畜ですら小屋に隠れてしまっている。まるで煤けた炭のような雲がすっぽりと集落に覆いかぶさっているためか、小ぶりの白雪すらどこか陰を纏っているかのように見えてしまう。このような陰湿な空気の中では寒さに強い鳥の類ですら鳴き声を潜めてしまうというものだ。
 静寂を割るように、馬が駆ける音が響いた。分厚い獣のコートとマフラーをくるんだソツは、若年のエルフらしい整った顔を赤くさせながら集落の家屋に駆け寄る。家の前には一人の老女が立っており、彼女は祭祀のために使う儀仗を支えとしながら、西より吹雪いてくる冷風の根源を睨んでいた。ソツは馬を厩舎に避難させ、老女に向かって言う。

「祈祷師様。風が強くなって参りました。そろそろ中へ戻られないと御体に良くありません。それにこの雪に乗じて獣がくるやもしれません。さぁ、急いでください。御風邪を召されたら大変です」
「おお、神よ。これは幻か。あなたが示す試練か」
「神でも幻でもありません!嵐です!さぁ、早く中へ!」 

 半分心あらずという感じの祈祷師の手をさらい、ソツは無理矢理に屋内へと連れ込む。暖炉の火のためか室内は温かく骨身に染み入る。彼女は藁の座敷に腰を下ろして早々、身体を僅かに揺らしながらわが身を助けよと祈らんばかりにひたすらに祈り続ける。

「その者の手にイチイの枝を握らせ火を三度さらい、兎の皮を放りたまえ。山の恵みを受くるにその者は忘れるる勿れ。山の息吹に神は宿へり」

 祈祷の言葉が煩わしく聞こえる。この嵐の激しさで集落を走り回ったせいでソツの心身は疲弊していた。
 彼は寒さに震えながら箪笥の引き戸を開けて
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