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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の2:敗北
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ように弾けたい。。
 声が囁く。鼓膜から入ったそれは背筋を震わせ、慧卓の精神の奥深くにわだかまっていた愛に対する哲学までを、日の下に引きずり出してしまうような声色であった。

『でも、いいよ。慧卓なら何度だっていい。ね、早くーーー』
『はぁっ......凄い良いっ。ほんと、相性抜群だよね』

 蕩けんばかりの表情。滾る思いに急かされるように世界は早鐘を打ち、それに同調するかのように女性の肢体は微動する。『揺さぶられている』といった方が正しいかもしれない。琥珀色の瞳が慧卓の魂を捉えていた。
 白が黒に。黒が白に切り替わる。梟がいなないて蛇が舌を出す。黒い波が岩肌を削りとって火の手が丘の上を駆け上る。雨露が反射して空に飛ばされる。天と地は入れ替わらず、揺れた。ぎしりぎしりと心の戸に罅が入っていく。堰が決壊してとめどなく流水してしまう。そんな危機感じみたものが背徳的で甘美な響きに聞こえて、なればそれを早く見たいとばかりに視界が勢いよく揺れていく。それでもなお慧卓の視点は女に固定され、彼女は蠱惑的な高い声を喉から鳴らした。
 慧卓の頬に透明な手が当てられた。くすぐられるような感覚がする。反対側の頬にも手が当てられ、視界の中で彼女がぐっと近づいた。まるで引き寄せられたかのようだ。ますますと心が追い詰められる。戦士が槍をもって世界を征服せんとしても押し寄せる命の津波には逆らえない。拍動する彼女の輪郭。上から下へと瞳がぶれる。理性が必死に、道を踏み外すなと叫んでいる。しかしそれは炎の壁に遮られて届かず、慧卓は断続的に脈打つ異物の奔騰を感じ取った。
 渾身の力で女を押し倒す。そして彼は誤った理性で、心の内側を露呈した。

『......いいよ、慧卓。我慢しないで』
「実晴、俺、もうっ」
『いいよ。慧卓なら、全部、受け止めるから』

 世界が一段と激しく揺れる。女はこれまでの何よりも嬉しそうに顔を蕩けさせ、魂を捉えて離さぬかのように艶やかな嬌声を奏でた。知覚できるものがどんどんと消えて行く。エルフの母子や流麗な騎士も、純真な王女も。

(あれ、なんで俺、エルフとか騎士とか、王女なんて)
『私を見て、慧卓!!』

 すべてが集約された。世界が弾け飛ぶ。 
 身体の細部、指先から膝の皿、心の臓に至るまでが千切れ飛ぶと思わんくらいの閃光が身体を駆け巡った。このままどうなってもいいと思う程に魂が震え、心地よく、世界が鐘を打っている。視界がちかちかと煌めいてしまい鼓膜がきーんと耳鳴りを覚えている。それすらも愛おしく感じる。闇の中で、慧卓は自分の理性に鞭を打って服従させ、あるがままに己を晒した。
 虚脱感と解放感に包まれながら、慧卓は真っ暗な闇の空を見詰めていた。このままずっとこの気持ちでいたい。
 そう願っていたーーー次の瞬間。慧卓の視点が
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