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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の2:敗北
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だと見受けられる。

 ーーー魔力の増幅だけはないか。漏れだした力が天然の防壁をなって奴を守っている。これは中々に大変だなァ。

 くつくつとマティウスは喉を震わせる。またもはらはらと落ちてきた瓦礫の向こう側に立ち、悠然と相対している敵に、薄気味の悪い哄笑をプレゼントとして送った。
 遠くから響いてくる地鳴りのような低い音が、足元や側壁から振動と共に伝わってくる。遠からずこの遺跡は自壊していくだろう。数百年もの間よくぞ形状を維持し続けたものだが、それも今日を期として終わりを迎えるようだ。

 ーーーもうこのような場所に誰かが来る事もないだろう。なれば、被害を考慮に入れなくてもよいな。

 そう思うと、マティウスは両手の掌をぱちんと合わせた。手がゆっくりと離れていくと、その間から一本の槍ともいうべき形をした、閃光のように眩く細長い柱が生み出される。マティウスはそれを造り出すと杖のように握りしめて、切っ先を慧卓に向けた。

「これならどうだ」

 槍の先端から極太の雷撃ーーー先の戦いで脆弱な龍に放たれたのとと同一のものーーーが放たれた。ほぼ同時に慧卓は錫杖を地面に向け、錫杖から紫がかった光によって地面が砕かれて、瓦礫が光に繋がれながら壁のように慧卓の前に浮遊した。雷撃が瓦礫と正面から衝突して激しい火花を散らし、そのまま拮抗するかと思えたがすぐにその壁を貫き、光は轟音と共に慧卓に迫る。それは肉体を覆う皮膚や骨を『じう』と溶解させた後、それにとどまらず背後の壁すら破砕してしまった。 
 マティウスは思ったよりも簡単に敵を射抜いた事に拍子抜けしながらも、いつでも第二射が撃てるように構えを崩さなかった。雷撃の余波は凄まじいもので、まるで丸太を思わせる程に地面が抉れ、慧卓が立っていた場所は火山のような煙に覆われていた。やがて噴煙が治まっていくと、マティウスは煙の中に見えた黒い影に向かって第二射を放つ。しかし雷撃は煙を弾丸のように晴らしただけで、的に当たる直前に何かにぶつかって消えてしまった。
 煙が晴れた先には、マティウスが思わず喜ぶものが『浮遊』していた。

「いい恰好だ。それでこそ狂王よ」

 それは常識から考えればいたく冒涜的なものであった。錫杖と首飾りが虚空に浮遊し、それに付随するかのように慧卓の名残ともいうべきものが傍に漂っている。若さに溢れた瑞々しい脳漿と昆虫のような頼りない細身の脊椎、そして死を免れぬ筈なのにまったく正常であるかの如く鼓動する心臓だ。それらが半透明な光のオーブに守られながら浮遊し、雷撃によって消炭となった肉体を再生させつつあったのだ。スライムのように湧き立って細胞を再構築し、迷路のような毛細血管から泥濘のような色をした臓腑までもが造られていく。近くによれば臓腑特有の、あの不健全で饐えた臭いすら感じられそう
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