幕間+コーデリア:王女のワルツ
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ある晴れた昼下がり。華やかな宮廷の庭先にはこの季節に満開となる、色とりどりの花が咲いていた。それぞれの魅力を品よく、しかし決して一つの花だけを際立たせないよう互いに尊重し合うように美しさを誇っていた。宮廷の庭師が丹精込めた庭園は貴族たちの肥えた瞳を和ませるに充分なほど秀麗であり、それに魅せられるのは何も貴族だけでなく、使用人達も愛おしく感じていたのであった。
温かな木漏れ日が差しこむテラスで、一人の老人がデッキチェアに座っていた。海千山千の政治を乗り越えた皺が今は心を安らげるように伸ばされている。マイン王国国王、ニムル=サリヴァンは優しい日差しの中で瞼を閉じていた。ふと、そこに一人の美しい少女が現れる。少女は慎ましき動作で、国王の近くにあるデッキに紅茶を置いた。
「・・・お父様。紅茶を入れて参りました」
「おお・・・すまぬな、コーデリア。私が無理を言ったばかりに、そなたを侍女であるかのように使ってしまった。許してくれ」
「いいえ。陛下のためですから。なぜ無理となりましょうか」
少女、コーデリア=マイン第三王女は、慈愛に満ちた微笑を浮かべて言葉を返した。国王は紅茶をゆっくりと味わうように飲む。仄かなレモンの薫りがする、実にコーデリアらしい優しい味わいであり、国王は満足げに小さく首肯した。
今日は久方ぶりの親娘水入らずの穏やかな休日である。政務に勤しむ日々とは違って、二人を邪魔する者は何処にもいない。国王、ニムルは普段は人に見せない、朝日に揺れる木葉のような穏やかな雰囲気を纏っていた。これこそが彼の生来の姿であった。何事にもまともに反応せず、ただ重苦しい雰囲気を出すだけの国王としての姿は仮初のものである。娘と二人きりとなってしまえば御覧の通りの、一人の好々爺となるのであった。
ニムルは紅茶の薫りを愉しみながら尋ねる。
「時に、コーデリアよ」
「はい、何でしょうか、お父様」
「そなたは次の『キャロル』はどうするのだ?何をするのか決まっているのか?」
キャロル。その言葉を聞いてコーデリアの愁眉がぴくりと反応した。父は娘の心の機微を理解しつつも、それに言及する事は無かった。
ニムルが口にした『キャロル』とは、秋に入った頃に宮廷で行われる催事の一つである。教会が成立した日と成人の儀式が同時期に重なっていた事から、これらを一時に祝うために行われるようになった催しであり、その歴史は少なくとも二百年近くはある。催しが行われていた当初は厳粛な決まりがあったようだが今ではそれも緩いものとなり、専ら若者達の社交界への参入を迎えるための、一種の披露宴となっている。
コーデリアが反応したのは、そのキャロルにおける慣習が原因であった。若者らは社交界に入るために、お披露目として何らかの芸を行わねばならない。それは歌であり、楽
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