焦がれる夏
参拾参 舞い上がるたま
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千金の、決勝戦での、勝ち越しの一発だ。嬉しさも何もかも通り越して、何故か涙が溢れてきた。
「……ありがとう」
真司はベンチの隅から、静かな笑顔を見せた。
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「すみません。自分のリードが…」
「…あんなの、打つ方がおかしい」
マウンドに駆け寄った長良に対し、琢磨はボソッと呟いた。
延長戦の中で、限りなく致命傷に近い一点を、たった一振りで失った。
それもまぐれ当たりのようなホームランであれば、バッテリーとしては運命を呪う他はない。そして、失った点は二度と戻ってこない。
「そんな…こんな事って…」
是礼ベンチでは、真矢が唇を噛んでいた。
その目は赤く潤んでいる。
何と理不尽なのだろう。
ここまで何とか保ってきた均衡が、こんなにあっさりと破られてしまうとは。
「……加藤!」
腕組みしたまま微動だにしない冬月は、ベンチの隅で俯いている1年生を呼んだ。
ブルペンで準備していたが、結局投げる事は無かった控え投手の1人だ。
「バットを振って準備しておけ!」
加藤は俯いていた顔をスッと上げる。
その目には闘志が漲っていた。
「はい!」
もう出番を与えられずに落ち込んでいた一年坊主の顔はしていない。
加藤はバットを一本持って、ベンチ裏のロッカーへと消えていった。
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