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IS<インフィニット・ストラトス> ―偽りの空―
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第三十七話 真名
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けれど、あなたの出生云々に関しては気にすることじゃないわ」
「……でも楯無さん!」
「もともとこの世界は公平なんかじゃないのよ。生まれに才能、周りの環境、不公平ばっかりよ。でも、あなたはここにくるまでずっと辛い思いをしてきた……だったら少しくらいの反則技、見返りとして貰っておきなさい」

 だからこそ、彼女がこうもあっさりと受け入れてくれたことが意外で……嬉しかった。
 思えば、彼女は自分が男だとわかっても忌避することなく接してくれた。本来であれば女と偽って学園に通う男など、そこに通う生徒にとってみれば忌み嫌うべきものである。にも関わらず、彼女は紫苑という存在を真っ直ぐ見て、その存在を受け入れた。

「楯無……さん」
「刀奈よ」
「え?」
「……私の本当の名前。楯無は代々襲名する当主の名前なの。だから、更識刀奈が私の本当の名前……もう使うことがないんだけれどね、でもあなたに知っておいて欲しかった」

 その名を紫苑に伝える、それがどういう意味なのか彼は必死に思考をフル回転させる。

「ふふ、どうしてって顔してるわね。いい? これは鎖よ。この名前はもう使うことは許されない。でも、あなたはそれを知ってしまった……だから、簡単にいなくなったり……死んだりすることは許さないわよ?」

 更識楯無、という当主の仮面を被っている彼女にとって、その真名を託すということは仮面の内側をさらけ出す行為である。
 ただ本名を告げるだけ、などという簡単なことではなく、更識家当主にとって楯無の名は、私を捨て一族全てを背負う覚悟の象徴。彼女の行為はその覚悟に背く行為であり……楯無ではなく刀奈としてどうしても伝えたいことであった。

 その重大さは紫苑も楯無も理解している。

 だから、楯無は鎖と言ったのだ。
 鎖は呪いと言い換えてもいい。重大さを理解しているからこそ、紫苑の中で占める楯無の割合が大きく変化するだろう。もちろん、今回のことがなくても彼は楯無に対して真摯に接するつもりでいる。しかし楯無の行為はそれを誓わせること。それはまるで……。

「……なんだか告白みたいだね」

 そう、プロポーズそのものである。
 本人にその気があったのか……いや、彼の言葉で真っ赤になっている彼女の顔を見るに指摘されて初めて気づいたのだろう。

「え、ち、違うわよ! 違わないかもしれないけど違うの! そりゃ確かに本来なら夫婦になる人間にしか話さないような風習もあるみたいだけど……ってそうじゃなくて!? 私が言いたいのは、私の本当の名前を知った人間なんだからもっと頼りなさいってこと、あと勝手にいなくなったりしないこと、いい!?」

 明らかに狼狽しているが、そんな彼女の姿を見て紫苑はそんな呪いも悪くない、と静かに笑った。

「もう……あと
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