15話
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それ以降、由香の注意は電子空間から再び現実世界へ向けられる事になった。
『カナメ、知っていますか。戦闘というものは、攻めこむ側に多大な負担を強いるものなのですよ。動物というものは、動くことでしか食料を確保できません。動物は常に餌を探し求める必要がある。しかし、この大地において彼らの食料となりうるものは存在しない。彼らの侵攻には限界があるんです。そして、私は計算された防御陣地を以って、亡蟲を迎え撃つ事ができる。それほど心配することはありません』
ラウネシアは亡蟲の軍勢を知覚しても、その余裕を崩そうとはしなかった。
それがボクを心配させない為の気遣いなのかは定かではなかったが、その考えにボクは幾許かの危機感を抱いた。その分析は間違いではないが、それで終わってはいけない。過去に由香が言っていたように、防御側が有利なのは安定したパラダイムの下において限定されたものだ。
ボクはラウネシアについての評価を改めなければならなかった。知能そのものに問題は見られないが、巨視的な知識が欠落している。演繹的に答えを導き出す事はできても、その限定された知識故に飛躍した思考をすることができない。ラウネシアは人のような多様性を持たず、また多くの歴史というものを知らない。そして彼女は常に防衛側であり、敗北を一度も知り得ない。それは、指揮官として致命的な欠点でもある。
攻撃側は、有利である。そう断言した由香。
攻撃側は、不利である。余裕を崩さなかったラウネシア。
どちらが正しいのかは、後にわかることだ。
『攻撃を開始します。カナメ、伏せてください』
亡蟲の軍勢との距離が、もう一キロメートルを切っていた。
ボクが身を伏せると、ラウネシアの点在樹から凄まじい攻撃意思が立ち上った。それは憎悪にも似ていて、周囲の植物群もそれに応えるように攻撃意思を発した。
『攻撃を、開始せよ』
ラウネシアの持つ柔和な雰囲気が霧散し、露わになった暴力性が森を支配する。
感応能力が直接拾うその暴力的な感情の嵐に、思わず足が竦んだ。
そして、大気が震えた。
あまりにも巨大な音に、視界が一瞬波打った。
暴力的な破裂音とともに、一斉に無数の黒い何かが森から撃ち出され、隊列をなして進軍する亡蟲の軍勢に襲いかかる。
その光景に、ボクは目を疑った。
それは最早、植物の攻撃手段ではなかった。
圧倒的な火砲だった。
森全体が砲となって、観測もなしに敵軍に対して一斉砲撃が始まる。
一瞬にして、亡蟲の軍勢が乱れていく。
遠目で見たところ、亡蟲は火砲は所持していない。その主要な武器は槍や斧のようだった。
それは戦争ではなく、虐殺だった。
ラウネシアの指揮によって、森中の植物が一斉に近代兵
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