15話
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大なシステムもだよ、カナメ。実際に多くの重要なシステムというものは老朽化したものを無理やり稼働させているものも多い。継ぎ接ぎだらけで、運用側もその全てを理解していない場合が殆どだ。ネットワークセキュリティそのものが堅牢でも、それを管理する人間の脆弱性というのも多数存在する。スタンドアローンの重要なシステムだって、既にいくつもの攻撃事例が存在する。セキュリティというものは、工数さえかければ必ず攻略されるものなんだ。防衛側に出来る事は、突破に対する時間をいかに遅くするか、ということくらいだよ」
その話は、当時のボクにとっては意外な事のように思えた。
「電子戦というのは、普通の戦争とは随分と様相が違うね。実際の戦争は防御側が有利じゃないか」
「それは違うよ、カナメ。互いがあるパラダイムの下に安定している時においてのみ、防御側が優勢を確保できるだけに過ぎない。防御側が想定しているスケールを超えた攻撃を加えれる事が可能なら、攻撃側が有利なのは実際の戦争でも同じだよ。少なくとも、史実ではそうなっている。パラダイムシフトが起きた時、防御側は一気に不利な状況に陥るものなんだ」
ボクはその話を聞きながら、彼女の瞳をじっと見つめた。
「それで?」
彼女の瞳が、微かに揺れる。
「何故、こんな話をボクに。そして由香は何故こんな遊びをしているのか、教えてくれないかな」
「カナメ。ただ私はこう言いたいんだ」
彼女は言い訳をするように、曖昧な笑みを浮かべて言った。
「包丁が売られているのは、それが正当な目的で使われる事を前提にされているからだ。あらゆるシステムもまた、悪意を持った技術者がいないという技術者倫理に基づいて運用される。セキュリティというものは機能とは別に多大なコストがかかるものなんだ。そして日本において、その安全性に対して対策を怠ったとしても、それを処罰する法は存在しない。なら、辿り着く答えは一つしかない。これが日本を取り巻くセキュリティ問題の現状だよ。問題は動機であって、方法ではない。私はそれを証明するために、こんな火遊びを始めたんだ」
ボクは息を止めた。
由香の瞳孔がボクを呑み込むようにゆっくりと開く。
平静を装っているが、彼女が興奮状態にあることがわかった。
そしてボクもまた、すぐに言葉を返す事ができなかった。それはボクの犯したミスだった。
由香の顔から、言い訳じみた笑みが消える。
これ以上は危険だ、と思った。
ボクは彼女の真意に気が付かなかった振りをして、呆れたように笑った。
「……由香、火遊びは一人でするものだ。他人に自慢するのは感心しないよ」
これ以上、この話をするつもりはない。
ボクの意図を汲み取った由香は、そうかもしれないね、と短く相槌を打った。
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