第3部:学祭2日目
第11話『猛撃』
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朝の陽ざしどころか太陽までも現れず、外は夕闇とみまごうぐらい、ネイビーブルーになっている。外からは新聞配達のバイクのエンジン音や、鶯の鳴き声だけが響き渡る。
クマのぬいぐるみなど、いかにも女の子な趣味というべき、唯の部屋。
まだ4時半にもならないうちに、唯は目覚めてしまっていた。
彼女の頭に響く、あの声。
『償いたいのは、俺の方だよ。親父のしようとしていることも含めて』
『誠のそばに、いてやってください』
無意識のうちに、足を大きく振って、反動で起き上がる。
学生服に着替え、猫のような足取りで階段を下りていく。
靴を履こうとするとき、茶色い靴を間違って蹴ってしまう。
カタン、と音が鳴るが、誰も起きてこない。
2階に向かって手を合わせ、外へ行き、鍵をかける。
なぜこうしているのか、自分でもわからないが。
只一つ。
マコちゃんに会いたい。
それだけが、唯の頭の中を占めていた。
カーテンに光が差し込み始めた。
が、青い床、白い壁の誠の部屋は、暗い。
尿意を催し、誠はフラフラと起き上がった。
用を足して戻ってくると、白い充電器にかけていた自分の青い携帯が、音のない振動を鳴らしている。
隣の時計を見ると、まだ早朝。
こんな時間に、誰だ?
不機嫌にメールを開いてみた。
『おはよう。いい朝だね。
マコちゃんちの窓から、下見てみてよ。 唯』
「唯ちゃん……?」
半信半疑で窓を見た。
息をのんだ。
唯が学生服で、左手を振っている。
「おはよう!」
どうなってるんだと思いつつも、急に不安が誠の頭をよぎって、急いで深緑色の普段着に着替えて外に出た。
「おはよう!!」
元気よく声をかける唯だが、誠は全速力で駆けより、
ガッ!!
強く唯を抱きしめていた。
思わず頬を染め、恍惚となってしまう唯。
「……マ、マコ……ちゃん……?」
「だいじょうぶ? 何ともなかった?」
「え……何ともなかったって?」
「親父のこと」
「マコちゃんのお父さんは、全然見かけなかったよ」
「そ、それはよかった……」
とはいうものの、誠も困った。
母も熟睡しているだろうし、まさかたたき起こすわけにはいくまい。
恍惚としていた唯は、無意識のうちに、誠の背に自分の腕をまわしていた。
彼は、思わぬ唯の行動に頬を赤らめ、
「あ、あのさ、唯ちゃん……ご飯食べてきた……?」
「あ、そうだねえ。行くときにおなかすかないように、バームクーヘン1個食べてきたけど……」唯は頭をポリポリ掻きながら、「意外とおなかにたまるから、しばらく食べなくて大丈夫だよ」
「そう……」
ああ言ってはいるものの、1時間もすればすぐに腹が減るだろう
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