第一章
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鳴らした。するとカウンターのマスターが愛想よく俺の前に出て来てくれた。そしてバーボンのボトルを一本俺達の前に差し出してくれた。
「おごりだ。取っておきな」
「相変わらず気前がいいね」
「犬はそうなんだよ」
冗談めかしてまた犬のことを話に出す。
「だからだよ。遠慮なくな」
「わかったよ。じゃあ遠慮なくな」
「そうしてくれ。さて、と」
煙草を灰皿で消してそれから席を立った。カウンターにコインを置いておくのは忘れない。
「マスター」
「何だい?」
「すぐに戻って来るぜ」
不敵に笑って白髪のマスターに言ってやった。
「すぐにな。それまで店開けておいてくれよ」
「すぐにかい」
「勝った後の酒が一番美味いんだよ」
だからだった。喧嘩の後はいつもここで飲む。このことは今回も守るつもりだしそうした。
「だからな。頼むぜ」
「わかったよ。じゃあ待ってるぜ」
「ああ、それでな」
「何人分だい?」
マスターは背を向けて店の扉に向かう俺に声をかけてきた。薄暗い店の中は他の客の煙草の煙とその匂いで一杯だった。ついでに酒の匂いもきつい。
「何人分だい?あんただけかい?」
「俺だけだったらいいんだけれどな」
立ち止まってマスターに顔を向けて言った。6
「そうもいかないだろうな」
「じゃあメンバー分だけ」
「ああ、頼む」
こうマスターに答えた。
「多分そうなるからな」
「わかった、それじゃあな」
「連中のことさ、どうせ潜んでいやがる」
不敵に笑いながら今度はガムを取り出した。早速それを口の中に入れる。
「こっちも用意しておくさ」
「集合かけとくんだな」
「ああ、念の為な」
「俺がかけようか?」
イタチが名乗り出てきた。
「何なら。どうだい?」
「それは情報屋の仕事越えてるだろ」
「バーボンの御礼さ」
笑ってこう返してきた。
「だからさ。それじゃあ駄目かい?」
「そこまではいいさ」
けれど俺はその申し出は断った。何もそこまでしてもらわなくてもと思ったからだ。幾ら何でも図々しい。電話位は簡単にかけられる。
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