第八十六話 見えない影に
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「やあ、連れて来てくれたかね?」
「ハッ、クラウ・ハーケンを三番格納庫にて拘束後、ご命令通りこちらに!」
クラウ・ハーケンを拘束した責任者がデュランダル議長にその報告を行う。彼の私室にはいつものようにチェス盤と椅子が置かれており、普段と変わりない余裕を見せた彼の表情は先程まで戦場で戦ってきた疲れを全く見せていない。
「すまないが、少し席をはずしてくれたまえ。なに、君たちの危惧するような事態が起こることはない」
「しかし――――」
それは流石に万が一のことを考えれば危険ではないかと責任者は口を濁すが、デュランダル議長は微笑んだままに言葉を続ける。
「構わないね」
「……かしこまりました」
二度同じことを言われたという事はこれは命令であるという事だ。責任者はクラウを手錠で拘束したまま部屋へと連れていき、そのまま退出した。
「気分はどうかね?彼も悪気はないんだ。ただ仕事に実直すぎるきらいがあるのでね」
「――――別にどうという事ではないですよ。仕事に実直なのは良い事ですし、俺自身、逃げるつもりもありません」
拘束されたことに対しても気にした様子はない。事実、どうという事は無いのだろう。クラウにとってはここで殺されてしまうような結果になっても返ってくる反応はもしかしたら薄いものかもしれない。
「ふむ、普段と変わらない様子で結構だ。さて、一応は立場ある人間なのでね。例外を認めて君を無罪にするというわけにはいかない。シン・アスカを逃がしたというのは軍規によって罰するというのであれば銃殺刑が妥当であろうが、こうも例外的な事態だ。情状酌量の余地もあるという事と、私の権限で保留としよう」
そこに恩着せがましさや嫌味といった様子が全く見られないのは彼のカリスマからくるものなのか、それとも詐欺師のような存在だからか――――所詮は凡人の枠を出ないクラウに相手の心を見透かすことなど出来ず、ただ受け入れるだけである。
「まあ、そういう事であればありがとうございます――――」
銃殺刑を保留にしてくれたという事には感謝しているのか、それなりに礼儀をわきまえた態度で対応する。十分無礼な態度と言われてもおかしくないのだが、議長の方も大して気にしない。
「それで、これから君はどうしたい?」
「その質問に対する意図と必要性が分からないのですが……あなたが命令する立場であることに変わりませんし、俺は非道な命令だからといって断る道理などもありませんよ」
何をどうしたいからと言って彼に断る権限もなければ、わざわざ手間をかけてまで断るために力を尽くそうという気力も存在しない。クラウにとっては戦争は非日常の一端ではなく日常だ。だから、命令される事には慣れているし、反発することが只々面倒であることも理解
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