十一 策士
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。血が滲む彼の腕を嘲笑いながら、キンは糸を握る手を僅かに動かした。
キンの手の動きに従って、糸の先に繋がっている鈴が再び美妙な音色を響かせる。美しい音とは裏腹に、その音色はシカマルの平衡感覚を狂わせていく。
思わず膝をついたシカマルを見下しながらキンは得意げに語り出した。
「この特殊な鈴の音の振動が鼓膜から脳へと直接働き掛ける。そしてお前に幻覚を視せるのさ」
彼女の言葉通り、シカマルにはその場の全てがゆらゆらと翳んで見える。耳をいくら押さえつけても鈴の音は止むことはない。
終いにはキンの姿が二重に三重にとブレて見え、シカマルは奥歯を噛み締めた。
「さぁ…ゆっくり料理してあげるよ」
嘲笑しながら千本を構えたキンが腕を振る。為す術もなくシカマルはその千本を真正面から受けた。あっさり突き刺さった三本の千本を満足げに見遣りながら、キンは言葉を続ける。
「今度は五本…次は七本…。お前がハリネズミになるまで続けてやるよ」
じわじわといたぶってやるとあからさまに告げるキン。頭を振って気を取り直そうとしても、幻覚により多人数のキンの姿が見えるシカマル。
だが傍目には試合開始当初と同じく一対一の試合にしか見えない。キンに翻弄されているシカマルに、ナルは焦って声を張り上げた。
「シカマル―――!!何やってんだ―――!らしくね―ぞ―――!!」
鈴の音に紛れながらも確かに聞こえたナルの声。彼女の激励を受けたシカマルの目に力が込められる。
怪我を負った自身の腕を押さえながら、彼はわざと苦々しげな声を上げた。
「嘘吐き女め。最初にすぐ終わらせるって言ったじゃねえか」
「じゃあこれで終わりにしてやるよ」
シカマルの一言を痛みに耐え兼ねての発言だと捉えたキンは、止めを刺すために千本を顔面に構える。そして致命傷を狙い、腕を振り上げようとした。
「な、なに!?」
だが自身の身体の自由が突然利かなくなるキン。
身動ぎひとつとれない彼女は糸を動かせない。故に糸の先にある鈴の音は止み、同時にシカマルに掛けていた幻覚も解けた。
気だるげに立ち上がったシカマルがひとつ息をついた。泰然自若なその様は今まで追い詰められていた人物とは到底思えない。尤もその平然とした態度はわざと振舞っているのであって、実際は千本が突き刺さった傷跡が未だじくじくと痛んでいる。
だが彼は痛みに耐えつつ、気丈にも笑みを浮かべてみせた。
「ふ〜…ようやく【影真似の術】成功」
「な、何を言ってるの!?そんな、お前の影なんかどこにも…」
困惑するキンにシカマルが種明かしをする。彼女にも見えるようにシカマルは頭を僅かに動かした。自身の手を見下ろしたキンがはっと目を見張る。
「こんな高さにある糸に、影が出来るわけねーだ
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