六十六 暗雲
[1/7]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
ジジ…と炎が爆ぜた。
陰気で重苦しい空気が澱む、薄暗い部屋。蝋燭の淡い光が仄かに漂う室内。
何処からか紛れ込んできた一匹の蛾が炎と戯れていた。陰鬱な空間を占める圧倒的な静寂。
突如、バシンッとけたたましい音が轟いた。
静寂を破った代償か、無残な姿に変わり果てる。はらはらと、磔となった壁から命と共に散りゆく翅と鱗粉。
「……おのれ…」
死んだ蛾など目もくれず、苦痛に喘ぐ。薄闇の中、ほとんど聞き取れないほど微かな呻きが響き渡った。喉奥から絞り出したような掠れた声。
人影が蛾の死骸を覆い尽くす。影は蛇の如く壁沿いを這い、やがて忌々しげに唸った。
「…おのれ…猿飛め…」
「まぁ、そう簡単ではありませんよ。何せ相手にしたのは五大国最強と謳われる火影なのですから…」
怒りで肩を震わせる男――大蛇丸を宥めるように、そっと声を掛ける。言葉の端々から同情が感じ取れて、大蛇丸は眉を吊り上げた。
剣呑な瞳に怯んだカブトが思わず生唾を飲み込む。それでも彼は己を奮い立たせ「それに、」と付け加えた。
「うちはサスケには貴方の首輪がつけられた…。上出来ですよ」
「この腕と、私の全ての術と引き換えにねぇ…」
皮肉げに歪んだ唇から紡がれた声はぞっとするほど冷たい。寒気を覚えるカブトを冷然と眺めてから、大蛇丸は一息ついた。目を伏せる。
「そもそもあのうちはイタチを手に入れる事が出来れば、問題は無かった…しかしそれはもはや叶わぬ夢」
伏せ目がちに語られた話を聞き咎め、カブトは「意外…ですね」と口を挟んだ。
「僕はてっきり…貴方はナルトくんの身体が欲しいとばかり…」
「ふふ…それこそ夢のまた夢よ…。イタチ以上に強いあの子を手に入れるなんて…」
両腕の激痛に耐え、汗の玉を額に浮かばせながら大蛇丸はくくっと喉で笑った。
ホルマリン漬けの蛇の瓶に映る横顔。歪んだ口許がゆるゆると口角を吊り上げる。
「口にするのもおこがましい」
どれほど闇が深くとも光を満たす太陽。どれだけ手を伸ばしても届かぬ月。
輝きに目を奪われ、求めたところで、届けられぬ願い。
掴んでも振り払われる。握っても指の合間からすり抜ける。容赦なく拒まれ、それでも手を伸ばさずにはいられない。
決して手に入れられぬモノと知っていて猶、焦れずにはいられない存在。
たった一言で、カブトは直感した。
どんなに大蛇丸がうずまきナルトを欲しているのか。如何にその力に魅了されているのか。
そして同時に思う。
うずまきナルトを手にしたその瞬間に、大蛇丸は満足してしまうのだろう。
何故ならば、彼は独りで完璧な存在。
超然たる様でこの世を見据える、孤高の人。
もはや、神そのもの。
故に大蛇丸は、予てよりずっと抱いているのだ。
叶わぬ夢だからこ
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ