第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
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一節が過ぎった。
それは、目に映る余りの絶望の姿に、思考が現実逃避をしたからかもしれない。
『イーヴァルディは洞窟の奥で竜と対峙しました。何千年も生きた竜の鱗は、まるで金の延べ棒のようにきらきらと輝き、硬く強そうでした。』
落ちてくる月の影響で風が巻き起こり、砂が舞い空を覆う。
『竜は震えながら剣を構えるイーヴァルディに言いました。』
圧倒的質量が迫る月に、未だ空高くあるにもかかわらず、タバサは圧迫感と重量感を感じる。
『「小さきものよ。立ち去れ。ここはお前が来る場所ではない」』
崩れ落ちそうになる膝を震えさせながらもタバサは立ち、士郎の背中を見つめ続ける。
『「ルーを返せ」』
赤い背中は、左手から生まれる光を受け、赤く輝いて見える。
『「あの娘はお前の妻なのか?」』
迫る絶対の死を感じさせる落下する月の姿に、しかし士郎は怯えた姿を見せることなく力強く立っている。
『「違う」』
大気が悲鳴のような揺れを起こし、身体が震える。
『「お前とどのような関係があるのだ?」』
近付く月が空に輝く星々を隠し、世界は闇に染まっていく。
『「なんの関係もない。ただ、立ち寄った村で、パンを食べさせてくれただけだ」』
闇に世界が染まりゆく中、ただ一つ赤い光が世界を照らしている。
『「それでお前は命を捨てるのか」』
士郎が空に輝く左手を掲げた。
『イーヴァルディは、ぶるぶると震えながら、言いました。』
その瞬間、一際強い赤光が世界を満たし、
『「それでぼくは命を賭けるんだ」』
一つの槍が生まれた。
士郎は左手に生まれた赤い槍を握り締め大きく振りかぶる。
槍を矢に、腕を弦に、身体を弓に見立て、士郎は力を込め、狙いを定め、
「――――――覚悟しろ―――これは少しばかりキツいぞ」
構えた矢を解き放つ。
「穿ち貫けッ! 破魔の紅薔薇ッ!!」
真紅の光が、天を駆ける。
放たれた矢は、音を置き去りに加速を続け、瞬きの間もなく迫る月へと辿り着き。
「―――――――――ッ――――――なッ、ぁ―――――ッ??!!」
穂先が月に触れる度、破魔の紅薔薇は精霊の力の繋がりを遮断する。
ただの土くれなど、音速を超えて飛ぶ破魔の紅薔薇を止めること等出来はしない。
一瞬たりとも停滞することなく、破魔の紅薔薇は月を穿ち貫く。
全ては一瞬にも満たない刹那での出来事。
矢として放たれた破魔の紅薔薇は、馬鹿げた質量の岩の塊を、まるで豆腐のように刺し貫き
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