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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
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を意味している。
 それを理解した時、ビダーシャルは己の内から湧き出た衝動に身を任せた。

「臥っ嗚呼唖々アアぉぉッッつ!!」

 怒りに、憎しみに、殺意に――――――だがそれは、もう一つの感情から目を逸らすためのものであったことに、ビダーシャルは気付いていなかった。
 血に染まった手を士郎に向けた。
 連動するように、士郎の周りに転がる岩蛇の残骸が浮き、士郎を覆うようにナイフのように尖った石が襲いかかる。
 だが、

「遅いな」
「―――っぁああア嗚呼唖々アア亜ああぁぁッ!!」

 そこには既に士郎の姿はなかった。士郎が進んだ道筋を追い、赤光が闇に走っている。左手に刻まれたルーンの輝きと、赤い外套が混じり合い生まれた赤光の先に、士郎はいた。文字通り目にも止まらない速度で駆ける士郎に、ビダーシャルは悲鳴か怒声か分からない声を上げる。

 ―――――危険―――
 ―――危険だッ!
 ―――危険だコレ(・・)はッ!!
 ――早期にッ!
 ――迅速にッ!!
 ――直ちに排除しなければっッ!!!


「―――ッッつぁあッ! 舐めるな蛮人がぁあアアあっ!!」
 
 血に濡れた身を空に浮かべ、月を背負いビダーシャルは天に向け両手を掲げる。
 空を支えるかのように上げた手に導かれ、アーハンブラ城を中心に岩が、砂が、石が宙に舞い上がる。見る間にビダーシャルの頭上に巨大な円が生まれる。
 それは巨大な石の、砂の、岩の固まり。
 それは余りにも大きかった。
 その時、地上に一つの月が生まれた。
 落ちればアーハンブラ城はもとより、その下の宿場町も被害を受ける程の驚異的な質量を持った固まり。それはもはや魔法ではなく災害。幾万の可能性の一つで起きる、天の星が落ちる大災害。
 星落とし。
 
「消え失せろおおォォアアぉぉオォッ!!」 

 叫びと共に、頭上に掲げていた両手を、ビダーシャルは振り下ろす。
 風を纏い、大気を押しつぶしながら、月が落ちてくる。
 先程の岩蛇など比べ物にならない程の大きさ、質量。
 夜の星空を覆い、一つの巨大な固まり―――月が落ちてくる。
 迫る月を、士郎は見上げる。
 
「なあ相棒……あれ、どうにか出来る?」

 月が落ちてくる。
 その余りの光景に、剣であるデルフリンガーは呆れたような声を上げるが、その声は微かに、しかし確実に震えていた。
 
「ま、どうにかするしかないな」 

 そんな声に軽い調子で応えた士郎は、デルフリンガーを地面に突き刺す。
 そして、空いた左手を頭上にかかげ、

投影開始(トレース・オン)

 己の内に呼びかけた。 
  




 空に三つ目の月が生まれた時、何故かタバサの脳裏に『イーヴァルディの勇者』の
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