第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
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ダーシャルの瞳に、二人の士郎が映っていた。
理性は理解を拒否した。
だが、本能は強制的に理解させられた。
―――残―――像―――ッ!!??
気付いた瞬間、爆音が耳を貫く。
音は二つ。
大地が弾けた音。
続いて、風が裂けた音。
遅れて、衝撃。
大型の台風の風を纏めて凝縮したような衝撃を全身に受け、吹き飛ばされるビダーシャル。
反射的に閉じる瞳の最後に映ったのは、目の前の士郎の後ろにいる士郎の姿が消える瞬間だった。
数十メートルを風に吹かれる埃のように地面を転がったビダーシャルは、盛り上がった土に背が当たってようやっと止まることができた。
丁度立った姿の状態で、土山を背に止まったビダーシャルが、回る視界と混濁する意識を何とかしなければと考えた時、
「……っは? ごぇっ、ぁ?」
気の抜けたような声がビダーシャルの口から溢れる。
遅れて、喉からゴボリとくぐもった音と共に血塊が溢れ出し、最後に、右肩から左脇腹へ向け走った斜めの線から血が飛び出した。
「あ―――、ぁぁぁああああああっ?!」
何が起きた理解が追いつかないのか、ビダーシャルは驚愕混じりの悲鳴が上げながら、血に染まった手を見下ろす。
「ぃジィア嗚呼唖々アアああぁぁッ!!」
血に濡れた怒声を上げたのは、痛みのためか? それとも恐怖を紛らわすためか? 何が起きたか理解する前、否、理解してしまう前に、ビダーシャルは風石が封じ込められた指輪を作動させ上空に逃げた。理性もなにもなく衝動的に発動させたためか、一瞬でアーハンブラ城を超え、ビダーシャルは遥か上空に月を背に浮かんでいる。三桁の天空に浮かぶビダーシャルは、美しさよりも恐ろしさを感じる程巨大になった二つの月で照らされた、血に濡れた己の身体を焦点が合わぬ目で見た。
身体に刻まれた傷は一つ。
右肩から左脇腹に走る一本の線。
傷自体はそこまでたいしたものではなかった。
傷は内蔵にまで至ってはいない。
吐血の原因は全身に受けた衝撃の可能性が高い。
ビダーシャルの心中に、様々な情報が駆け巡る。
が、一番大事な情報が抜けていた。
―――否。
ただその事実から目を背けたいだけである。
―――反射を斬った―――
その事実を数舜の後、やっと理解した際、もう一つの事実を理解し、ビダーシャルの中でナニカが切れた。
―――手加減された―――
ビダーシャルの目には士郎の動きは全く見えていなかった。
気付いた時には既に剣を振り切っていたのだから。
つまり、士郎は全く一瞬の停滞もなく反射を斬ったということである。
その事実は、その時纏めてビダーシャルも斬り殺せたこと
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