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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
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 恐怖は感じている。
 怯えてもいる。
 恐ろしさに、身体は震えている。
 しかし、不安は感じない。
 ―――理由は、きっとあの背中。
 赤い―――彼の背中が見えるから。
 強大な、抗うことさえ思い浮かばない強大な力を前に、それでも意志と力を漲らせ立つ彼の背中があるから。
 迫る脅威に比べ、彼の存在は余りにも小さい。
 しかし、不安は欠片も生まれない。
 祈るように胸の前に手を組み、タバサは涙に滲む視界で彼の赤い背を見つめる。
 月を背にした岩蛇は、夜に染まりまるで闇が襲いかかってきているかのようで。
 赤い彼の背中が、闇に浮かぶ小さな火のように見える。
 その火は、闇の中あまりにも小さすぎるが、確かな明かりだった。
 タバサの青い瞳に映る火が、闇に飲まれる。
 その瞬間―――

「「「「「「「「――――――ッッ!!??」」」」」」」」

 太陽が生まれた。

 

「ッ嗚呼ああああぁッ!!」

 デルフリンガーを握り締める左手が白熱し、目を貫く輝きを放つ。夜の地上に生まれた太陽は、天に輝く太陽と同じく夜の闇に染まっていた地上を照らし出す。士郎を襲う闇を打ち砕く。
 轟音が響く。それは余りにも早く、長く続くため、一つの音としてしか聞こえない。硬い岩が砕ける音が、止まることなく連続して続く。身体の奥から震わす音が響き渡る。山一つ崩れたかのような音が延々と続くその中に、士郎の咆哮が入り混じる。
 一時間は続いたようにも、一瞬で終わったようにも感じたそれが終わった時、その場にいる者たちは息を飲んだ。
 全身を響き渡った衝撃と音で震わせながら、ルイズたちは目の前の光景に心を震わせた。 
 パラパラとザラザラと、空からナニカが降ってくる。
 それは石だった。
 それは砂だった。
 それは、石の、岩の蛇だったもの。
 振り注ぐ石と砂の雨の中、太陽の如く光を放つ左手に握った剣の先をビダーシャルに向け、士郎は告げる。

「すまないな『エルフのビダーシャル』。俺はまだまだ未熟でな。伸ばされる手しか掴むことが出来ない。だから、今この時の俺は、手を伸ばしたタバサの―――正義の味方(タバサの笑顔の味方)だ」
「っ、く」

 士郎が一歩足を踏み出すと、ビダーシャルは逃げるように一歩後ずさる。
 左手で輝くルーンに負けないほどの眼光で、ビダーシャルを射抜いた士郎は、静かに、決意に満ちた言葉を告げる。
 反撃の狼煙を告げる言葉を。
 


「いくぞエルフのビダーシャル――――――精霊の力は十分か」



 気付けば、目の前に士郎がいた。
 既に剣を振り下ろしきった(・・・・・・・・)姿の士郎が。
 その後ろに、自分に剣の切っ先を向ける士郎の姿があった。

「―――ッ?!」

 ビ
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