第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
[5/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
と焦がれる程に、な」
「だから」
キュルケの言葉の続きを、士郎は口にする。
「『笑顔』なんだ」
士郎はタバサの頭を撫でていた手をずらし、その手を髪の下の頬に添えた。ごつごつした硬い指先が、白く柔らかな頬に触れる。雪のように白い頬は、あたたかなものが流れ、濡れていた。それを親指でそっとぬぐい、頬に添えた手を動かし、優しくタバサの顔を上げる。
「俺は、な。これまでずっと『笑顔』に救われてきた。幸せそうに笑う顔に。なあ、タバサ。人が本当に幸せだと感じた時に浮かぶ笑顔は、な。見ている者も幸せにするんだ」
自分を見上げる青い瞳から、溢れ出る雫で手を濡らしながら、士郎はタバサに問いかける。
「なあ、お前は、俺を笑顔にしてくれるか?」
問いに、タバサは―――
「……で……、…………い」
士郎は待つ。
「………で、き……い」
膝を曲げ、士郎はタバサと視線を合わせる。
目の前に見える士郎の瞳をじっと見つめ、タバサは震える声で問いに応えた。
「―――でき、ない」
泣き濡れた声に、士郎は聞く。
「なら、教えてくれ。俺は自他共に認めるような鈍感で、馬鹿なんでな。だから、教えてくれ」
泣く幼子をあやすように。
迷子に親を聞くように。
道に迷った子供に行きたい場所を聞くように。
欲しいものを我慢する、我慢強い子に聞くように。
士郎は優しく問いかける。
「お前が、俺を笑顔にさせてくれるには、何をしたらいい?」
問いに、タバサは―――
「―――かぇ、り……ぃ」
泣く幼子がぐずるように。
迷子が親を呼ぶように。
道に迷った子供が道行を聞くように。
今までずっと我慢していたものを、初めて求める子供ように。
「―――……かえ、りた、い」
救いを求める声を上げた。
「―――帰りたいっ! 帰りたいよぉッ!!」
救いを求める声に、衛宮士郎は―――
「ああ、帰ろう―――みんなで」
空間を抉るかのような勢いで振り返った男を、風を纏い膨れ上がった外套が追って翻った。
血風が舞い、宙が赤く染まる。
身体に刻まれた傷口から溢れ出た血が、男の全身を赤く染め上げている。
両手をだらりと下げた姿で、力なく立ちつくしているように見えるその背中。
男が今にも倒れてもおかしくはない状態であることを、その背を見つめる者たちは知っている。
腕は折れ、全身から血を流し、疲労も蓄積しているだろう。
常人ならば、既に死んでいる。
メイジでも、変りはない。
だが、男は立っている。
血を流し、無
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ