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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
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と焦がれる程に、な」
「だから」

 キュルケの言葉の続きを、士郎は口にする。

「『笑顔』なんだ」

 士郎はタバサの頭を撫でていた手をずらし、その手を髪の下の頬に添えた。ごつごつした硬い指先が、白く柔らかな頬に触れる。雪のように白い頬は、あたたかなものが流れ、濡れていた。それを親指でそっとぬぐい、頬に添えた手を動かし、優しくタバサの顔を上げる。

「俺は、な。これまでずっと『笑顔』に救われてきた。幸せそうに笑う顔に。なあ、タバサ。人が本当に幸せだと感じた時に浮かぶ笑顔は、な。見ている者も幸せにするんだ」

 自分を見上げる青い瞳から、溢れ出る雫で手を濡らしながら、士郎はタバサに問いかける。

「なあ、お前は、俺を笑顔にしてくれるか?」

 問いに、タバサは―――

「……で……、…………い」

 士郎は待つ。

「………で、き……い」

 膝を曲げ、士郎はタバサと視線を合わせる。
 目の前に見える士郎の瞳をじっと見つめ、タバサは震える声で問いに応えた。

「―――でき、ない」

 泣き濡れた声に、士郎は聞く。

「なら、教えてくれ。俺は自他共に認めるような鈍感で、馬鹿なんでな。だから、教えてくれ」

 泣く幼子をあやすように。
 
 迷子に親を聞くように。

 道に迷った子供に行きたい場所を聞くように。

 欲しいものを我慢する、我慢強い子に聞くように。

 士郎は優しく問いかける。

「お前が、俺を笑顔にさせてくれるには、何をしたらいい?」

 問いに、タバサは―――



「―――かぇ、り……ぃ」



 泣く幼子がぐずるように。

 迷子が親を呼ぶように。

 道に迷った子供が道行を聞くように。

 今までずっと我慢していたものを、初めて求める子供ように。



「―――……かえ、りた、い」



 救いを求める声を上げた。



「―――帰りたいっ! 帰りたいよぉッ!!」



 救いを求める声に、衛宮士郎は―――



「ああ、帰ろう―――みんなで」





 空間を抉るかのような勢いで振り返った男を、風を纏い膨れ上がった外套が追って翻った。
 血風が舞い、宙が赤く染まる。
 身体に刻まれた傷口から溢れ出た血が、男の全身を赤く染め上げている。
 両手をだらりと下げた姿で、力なく立ちつくしているように見えるその背中。
 男が今にも倒れてもおかしくはない状態であることを、その背を見つめる者たちは知っている。
 腕は折れ、全身から血を流し、疲労も蓄積しているだろう。
 常人ならば、既に死んでいる。
 メイジでも、変りはない。
 だが、男は立っている。
 血を流し、無
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