第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
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タバサのあの笑顔は、あれは、誰かに強制されたものではなく、無理矢理作り出したものでもないと。
本当に、タバサは望んで笑っているのだと。
自然に感じるのも仕方がない。何故ならあれは、確かにタバサの内から生まれた笑顔なのだろうから。
親が子を想うように、姉が妹を思うように、弟が兄を憶うように……慈愛から生まれた笑みなのだから。
こんな笑みを浮かべられたら、士郎じゃなくても、何もいえないじゃない……。
誰よりもタバサの救出を願っていた自分がこう思ってしまうのなら、誰も何も言えないのではと、そう考えてしまった時、
「馬鹿が。そんな顔で言われて、大丈夫だなんて思えるか」
士郎の苦笑混じりの声が響いた。
「え?」という戸惑いを含んだ声が聞こえたのは、誰の口からだったのだろうか。
士郎はタバサの直ぐ目の前に立つと、ぽんっ、と彼女の小さな頭の上に手を置いた。そして、ゆっくりと髪を梳くようにその青い髪を撫で始めた。
「なあ、タバサ。お前は俺が何で『正義の味方』を目指しているか知っているか?」
理由。
エミヤシロウが『正義の味方』を目指す理由。
それは、以前聞いたことがある。
土くれのフーケが盗んだ学院の宝『破壊の杖』を取り戻すため、馬車に乗っていた時に聞いた。
その時聞いた理由は、確か―――
「確か父親との『約束』だね」
ポツリと答えた小さなロングビルの声に、士郎は頷く。
「ああ。『正義の味方』になれなかったと口にしたオヤジの代わりに、俺が『正義の味方』になると『約束』した……だがな、それは理由の一つでしかない」
「……じゃあ、他にも理由があるの……?」
手元から聞こえた声に、士郎は視線を下げる。俯き、青い髪で自分の顔を隠したタバサの頭を、士郎はくしゃりと撫でた。
「憧れたからだ」
「あこがれ、た?」
呟きに、笑みを返す。
「俺は昔、オヤジに命を救われた。誰も彼もが死んでゆく中、たった一人生き残り、だが、今にも死にかけていた俺を、オヤジは救ってくれた」
「その姿に?」
「ああ。だが、少し違う」
今にも泣きそうな顔で自分たちを見つめてくるルイズに、士郎は頷き、しかし続いて小さく顔を横に振った。
「確かに、俺は自分の命を救ってくれたオヤジに憧れた。だがな、俺が本当に焦がれ、望み、憧れたのは、俺を救ってくれた時、オヤジが浮かべた、幸せそうに笑う顔に、だ」
「笑顔に、憧れた?」
キュルケの問いかけに、士郎は目を細め応えた。
「ああ。救われたのは俺なのに、まるで自分が救われたかのように笑っていた。その顔がな、とても綺麗で、幸せそうで……だから、憧れた。俺も何時かそんな顔で笑いたい
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