第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
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―――
「――――――壊れた幻想」
月が―――砕けた。
己の限界を超えた精霊の行使によって生まれた擬似月。
絶対の自信を持って放った。
しかし、男が紅の輝きを天に向けて放ったかと思った瞬間―――月が砕け散った。
月は内部で爆発が起きたかのように急激に膨れ上がり四散した。
男が何かをしたのだと理性は告げるが、それをどうやったのかが分からない。
ただ、その力の強大さだけは分かっていた。
月を砕いた何かの威力は凄まじく、城を押しつぶさんとした月は、今や細かな砂粒や泥の塊となって舞っている。月が砕けた際に発生した衝撃は凄まじく、反射は砕け己の全身を本日最大の衝撃が貫いた。
抵抗する時間も手段も―――そしてその時にはもう、そんな意思もなかった。
全身をシェイクする振動に、意識がズレる。
間延びた意識の中、先程まで心の中に渦巻いていた憎悪や怒り等の感情が消えていくのを感じていた。
―――……何故だ。
自分に何をされたのか理解できなかった。
ただ、必殺の思いで放った月を、赤い光が貫いたと思った時には、やられていた。
そう、やられていた。
ビダーシャルは、自身の状態を正しく理解していた。
今保っている意識も、直ぐに消えてしまうだろうことを、ビダーシャルは分かっていた。
意識が薄れ。
行使していた精霊の力が崩れていくのが、感じ取れる。
眼下で、生み出した月が解け崩れていくのが見える。
霞がかかる視界に、地上に立つ影が映った。
その一つに、自然と意識が向く。
それは、一人の少女だった。
青い髪を持った少女。
囚われた少女。
―――ふん……笑っている。
視界に映る少女は、笑っていた。
初めて見た時、人形のような人間だと思っていた少女が、幼子のように笑っている。
心が消えると言われた時も、泣きも喚きもせずに、ただ人形のように従った少女が……。
―――……笑っているな……幸せそうに……。
意識が消える直前、ビダーシャルの目がもう一つの姿を捕らえる。
衛宮士郎。
今はもう、先程までの光は放っていなかった。
―――『正義の味方』……か……。
ビダーシャルは思い出す。
衛宮士郎が口にした言葉を……。
『人が本当に幸せだと感じた時に浮かぶ笑顔は、見ている者も幸せにする』
―――……ああ、そうだな。
消えかける意識の刹那、
――――――――……貴様の言うとおりだ……。
ビダーシャルの口元には―――笑みが浮かんでいた。
きらきら、きらき
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