第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
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「しぶといな」
「それが取り柄でな」
赤く身体を染めながらも、士郎は余裕の笑みを顔に浮かべ肩を竦める。
とはいえ、最大の好機を逃した今、取れる方法は二つしかないかと、士郎は思考を巡らせた。ルイズの虚無の魔法の援護か、それとも宝具の投影か。さてと、と士郎が考えを巡らした時、背中に濡れ揺れる疑問の声が向けられた。
「どうして、逃げないの……どうして……立ち向かえるの……」
それはタバサの声だった。
力なく、弱々しい。
親からはぐれた幼い子供が上げる、今にも泣き出しそうな声。
声が聞こえると、士郎は躊躇なく身体を回しタバサと向き合った。その場にいるもの全員が息を飲む。戦いの最中、敵に背を向けることは自殺行為に等しい。だが、士郎は平然とビダーシャルに背を向けた。 それは、ビダーシャルとの戦いよりも、少女―――タバサからの問いが大事だと示しているようであった。
士郎は向き直ったタバサに笑いかける。
「……そう言えば、まだ話しの途中だったな」
「―――え?」
戸惑いの声を上げるタバサを、士郎は細めた目で見る。
「なあ、タバサ。お前はさっき、ここに残ることを望んだ自分を、無理矢理連れ出すような奴は、『正義の味方』なんかじゃないと言ったな」
十メートル近い距離を保って、相対するように立つ士郎とタバサの視線が交わる。
タバサの戸惑い、疑問、不安が入り混じったものに反して、士郎のものは、何処までも優しかった。
「確かに、お前の言う通りだ。タバサがここに残ることを望んでいるにもかかわらず、無理矢理連れ出して、『助けてやった』なんて言う奴は、『正義の味方』なんかじゃない。ただの善意の押しつけだ」
ざわり、と周囲の空気が騒めく。それは戸惑い。タバサの救出を諦めるようなことを口にした士郎に対する動揺が、周囲に伝播したのだ。だが、そんな中でも、士郎は全く気にすることなく言葉を続ける。
「だがな、タバサ。例え本当にお前がここに残ることを決めたとしても、俺はお前をここから連れ出すよ」
「…………ぇ?」
喉の奥で弾けたような小さな声は、微かに開いた唇の隙間から漏れた。
「どう、して?」
「どうして?」とタバサは問う。さっき士郎は自分で人の意志を押さえ、自分の意志を通すのは『正義の味方』じゃないと言った筈なのに。なのにどうして、それでもわたしをここから連れ出すと……?
向けられる数多の視線。タバサだけじゃない。その直ぐ後ろに立つキュルケ。ルイズ、ロングビル、シルフィード、ギーシュにマリコルヌも疑問に満ちた視線を向けてくる。視線は問いかけてくる。
『どうして?』と……。
向けられる問いに、士郎は頬を上げ、更に目を細め
「タバサ
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