暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第九話 雪解け
[1/12]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「しぶといな」
「それが取り柄でな」

 赤く身体を染めながらも、士郎は余裕の笑みを顔に浮かべ肩を竦める。
 とはいえ、最大の好機を逃した今、取れる方法は二つしかないかと、士郎は思考を巡らせた。ルイズの虚無の魔法の援護か、それとも宝具の投影か。さてと、と士郎が考えを巡らした時、背中に濡れ揺れる疑問の声が向けられた。

「どうして、逃げないの……どうして……立ち向かえるの……」

 それはタバサの声だった。
 力なく、弱々しい。
 親からはぐれた幼い子供が上げる、今にも泣き出しそうな声。
 声が聞こえると、士郎は躊躇なく身体を回しタバサと向き合った。その場にいるもの全員が息を飲む。戦いの最中、敵に背を向けることは自殺行為に等しい。だが、士郎は平然とビダーシャルに背を向けた。 それは、ビダーシャルとの戦いよりも、少女―――タバサからの問いが大事だと示しているようであった。
 士郎は向き直ったタバサに笑いかける。

「……そう言えば、まだ話しの途中だったな」
「―――え?」

 戸惑いの声を上げるタバサを、士郎は細めた目で見る。

「なあ、タバサ。お前はさっき、ここに残ることを望んだ自分を、無理矢理連れ出すような奴は、『正義の味方』なんかじゃないと言ったな」 

 十メートル近い距離を保って、相対するように立つ士郎とタバサの視線が交わる。
 タバサの戸惑い、疑問、不安が入り混じったものに反して、士郎のものは、何処までも優しかった。

「確かに、お前の言う通りだ。タバサがここに残ることを望んでいるにもかかわらず、無理矢理連れ出して、『助けてやった』なんて言う奴は、『正義の味方』なんかじゃない。ただの善意(他人の正義)の押しつけだ」

 ざわり、と周囲の空気が騒めく。それは戸惑い。タバサの救出を諦めるようなことを口にした士郎に対する動揺が、周囲に伝播したのだ。だが、そんな中でも、士郎は全く気にすることなく言葉を続ける。

「だがな、タバサ。例え本当にお前がここに残ることを決めたとしても、俺はお前をここから連れ出すよ」
「…………ぇ?」

 喉の奥で弾けたような小さな声は、微かに開いた唇の隙間から漏れた。

「どう、して?」

 「どうして?」とタバサは問う。さっき士郎は自分で人の意志を押さえ、自分の意志(正義)を通すのは『正義の味方』じゃないと言った筈なのに。なのにどうして、それでもわたしをここから連れ出すと……?
 
 向けられる数多の視線。タバサだけじゃない。その直ぐ後ろに立つキュルケ。ルイズ、ロングビル、シルフィード、ギーシュにマリコルヌも疑問に満ちた視線を向けてくる。視線は問いかけてくる。
 『どうして?』と……。
 向けられる問いに、士郎は頬を上げ、更に目を細め

「タバサ
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ